これからのまなびをデザインする

 2022/01/05

教育を考えたとき、あらゆる技術革新が進む今の世の中において、いわゆる“出来合いの問い”を学ぶだけの学びから脱却し、自分なりの問いや課題を設定し、自分なりの手法で自分なりの答えにたどり着く、“探究する力”が求められています。教育という複雑なテーマに加え、これからさらに劇的に変化する世の中を生き抜くための未来の教育を考えることは、ゴールの見えない中を手探り状態で進むようなものに思えるかもしれません。そんな教育をテーマにそれこそ探究しながら取り組んでいる動きやプロジェクトをご紹介します。

ますます求められる『探究する力』

情報化社会と言われるようになって久しい世の中。総務省が公開している2019年における世帯の情報通信機器の保有状況をみると「スマートフォン」は83.4%となり、ついに8割を超えました。

ご存知のとおり、スマートフォンは一昔前では考えられないほど様々な機能を備えています。中でもインターネットに接続することで世の中のほとんどの情報や知識を手に入れられることはもちろん、様々なアプリを通じて暮らしを便利にしたり、仕事の効率化を図る機能が手軽に利用できたり、それこそ片手ひとつの操作で享受することができます。まさに生活のあらゆるシーンで活躍する必須ツールといえるでしょう。そんなスマートフォンをはじめとする情報通信技術やインフラをベースとする情報化社会の発達により今後ますます知識を多く持つ人よりも、論理的思考や高いコミュニケーション能力をもった柔軟な思考を持った人が求められる時代になっていくことが想像できます。

そもそも現在の教育システムは軍隊や農場、そして工場という組織の中で効率よく働き、活躍できる人材を均一的に育てるために制度化されたものがベースになっています。一方で、インターネットの登場により、工業化社会から情報化社会への移行が進み、あらゆる技術が発達、多様且つ複雑化した現代の社会においてはそのような教育システムはもはや機能しづらくなってきていることが指摘されています。

以前には考えられなかったスピードで日々技術的進化・発展が続いていて、中でもインターネットは世の中を激変させました。特筆すべきはインターネットによってほんの数十年前には考えられなかったような仕事が無数に生まれていること。今後も今まで存在しなかったような仕事がどんどん生まれてくる一方で、当たり前だった仕事がなくなっていくでしょう。

さらに世の中は情報化社会の次の段階、サイバー空間と現実世界のあらゆる情報やモノや人をつなぐIoTや人工知能(AI)の登場・発達により質・量ともに最適化を図る社会、Society5.0に入ります。

あらゆるモノやコトがシームレスにつながり連携する社会が目前に迫っている中、従来通りの教育システムを続けていて果たして通用するのでしょうか

そこで注目されているのが、“探究型の学び”です。

哲学者 苫野氏によると”探究型の学び”とは、

自分(たち)なりの問いを立て、
自分(たち)なりの仕方で、
自分(たち)なりの答えにたどり着く

そんな一連の流れを辿る思考や行動様式。と定義づけられています。

自ら問いを立てることで、その答えを導くまでのプロセスそのものを自分事にすることができ、主体的な学びに繋がり、より深く学ぶことができる。本来学びは、身の回りで自然発生的に生まれてくるものであるということにあらためて注意を向ける必要があります。

さて、そんな「探究型の学び」を旅と結びつけたプロジェクトがあります。

探究Journeyとは

「探究Journey」は、自分なりの問いを立てて、自分なりのやり方で、自分なりの答えにたどり着く。そんな自由でワクワクする自発的な思考の冒険である「探究型の学び」を「旅」の中で実践する、いわば“想像と探究の種を育てる旅”。

ジオパークの島「伊豆大島」には探究心を掻き立てるポイントがたくさん存在しています。過去の度重なる火山活動の痕跡、火山島での暮らしを通じて生まれた独特な風習や文化を辿りながら、探究型の学びを実践的に体験していくツアー、それが「探究Journey」です。

首都圏からもアクセス良好な伊豆大島はまさに“探究心を育てる島”として今後ますます注目されていくことでしょう。

この「探究Journey」に地元のガイドとして協力・参加した粕谷さんは大島でダイビング業を営み、伊豆大島ジオパーク認定ガイドや大島町公認ネイチャーガイド、そして星空ガイドと島の陸海空を知り尽くしたスペシャリストです。

粕谷さんが考えるガイドとは

粕谷さんはジオパークをガイドするにあたって、それこそ“探究”というキーワードを意識する前から、一方的に説明するような通常の観光ガイドのスタイルではなく、目の前に広がる景色の背景にある「何故?どうして?」に気づいてもらうこと、そこから一緒に考えながら答えへと導くこと、そんなプロセスを一緒に楽しむツアーを心がけてガイドをされています。

「僕がガイドを行う上で大切にしていることは”お客さんと一緒に楽しむ”なんです。私のことを”一緒に楽しむ旅の相棒”って思ってもらえればと思っています。」

そんな粕谷さんですが、自身が子供だった頃は勉強がすごく嫌いだったのだとか。
嫌いな原因について思い返してみると、それは実は「学校の先生の言っている事が理解出来ない=勉強がつまらない」だったことに気づきます。先生からの画一的で一方的な授業を受け続けなければならないことが何よりも苦痛だったのだとか。

本来の勉強はテストで良い点数を取るために学ぶものではなく、生きていく中で遭遇するであろう様々な課題や問題に対して、いかに最適な方法で対処するか、そのための手法・メソッドを学ぶ事が何よりも大切なことだと考えます。

そんな経験から、ガイド中は「教える」のではなく「楽しく伝える」ことに徹しているのだとか。知識を一方的に伝えるのではなく、一緒に楽しみながら考えたり、想像したりする余白を残してあげること。そんなガイドツアーを心がけているそうです。

一方で、ガイドをする先々には自然が相手なので危険な場面に遭遇することも。
例えば、ゴツゴツした大きな溶岩が点在するエリアなどが挙げられますが、そんな場所ではよく子供が興味本位から溶岩に登ったりします。でもそこはあえて止めたりはせずに本人の主体性に任せる、という粕谷さん。

「子供たちは自由に歩き回って登りたいと思うから登るわけです。当然足を滑らせれば小さいケガもします。でもそのケガをすることによってはじめて学ぶことができるんですよね。一方で、ケガをさせないために最初からフタをしてしまったらケガ(失敗)を知らない子供になってしまいます。「失敗は成功のもと」ということわざにもあるとおり、失敗を恐れず、大島の大自然の中で興味の赴くままにいろいろ体験して欲しい、そう思っています。」

五感をフルに活用して自然と触れ合い、ありのままの自然を体感する。ときには痛い目にも合う。そういった行動を通じて、自然の中における自分の存在、自分と接するあらゆるものとの関係性がクリアになっていく。そんな経験を味わってもらうことが大切なのではないでしょうか。そう、それは野生の勘的なものにも通じるのかもしれません。

そして、ガイドの内容や順番などの構成を考えることが何よりも大事な作業と語る粕谷さん、ツアー構成はその時の参加者の年齢層だったり人数だったり、あとはコンセプトだったり。様々な要件に対して自由にツアー構成をアレンジして、その場その場でベストな内容に調整しているそうです。

「いつも決まって、ここに来たらこれを言う、というのじゃつまらないですよね。大人のお客様が相手の時にはここでこういう言い方をするけど、でも今回は子供だからこういう言い方をしようとか、いつもだったらこういうルートから行くけど今回はこのルートで行こうとか。常に自分だったらこうしたら楽しいだろうなとか、自分だったら子供の時にこういう風に言ってくれたらすごくワクワクするなっていうのを思い描きながら、毎回毎回作り替えるんです。」

そんな作業が何よりも楽しいという粕谷さん。まさに、ガイド活動自体が探究です。

コラボレーション

さて、そんな「探究Journey」ですが、粕谷さん以外にも多彩なメンバーがプロジェクトを支えています。

探究型学習・想像力教育・パラレルキャリアの第一人者である矢萩さん。19年間の公立小学校での教員経験を経て、今は大島でレモン農園を経営しつつ、長野県にある日本初のイエナプランスクールの大日向小学校にて若手の先生の育成、カリキュラムの作成、探究的な学びのデザイン、ICTを活用した学びの促進等に尽力されている青山さん。そして、新規事業開発担当として、「旅」を通じた人材育成や教育、地域社会との繋がりづくり、地域活性、SDGsなど、幅広い領域を横断した旅行企画・事業開発に従事されている大田原さん。

それぞれのスキルを活かして今回の教育向けツアーが企画・実施されています。特に矢萩さんは探究型教育ナビゲータとして「探究的な学びの旅」である今回の『探究Journey』を監修されていて、粕谷さんも大いに学び、参考になっているそうです。

さらに今回のプロジェクトが興味深いのは地元のガイドである粕谷さんと地元での教員経験もある教育者の青山さんがつながったこと。

「実は今回初めて粕谷さんのガイドで大島を歩いたのですが、それがすごく面白くて深い学びを得ることができました。僕は10年程大島の公立小学校の教員として教育に携わっていたのですが、大島のことをジオパークという視点で子供たちに何にも教えていなかったなぁと反省してしまうほどでした。」

青山さんは今回のプロジェクトを通じて伊豆大島ジオパークが地域教育の大きなテーマになることを実感されたそうです。

粕谷さんは、これまで青山さんのようなタイプの教育者と接する機会というのがあまりなかったので、教育者の視点で色々気軽に相談できることが非常にありがたいと、今回のプロジェクトを通じて、コラボレーションによってより効果的な学びが提供できることを実感されたそうです。今後地域教育実践部隊へと発展するチームが誕生しつつあります。

新しい教育につなげる

今回のツアーをつうじてお子様づれの家族に向けたツアーに限らず、教育現場の教員にもニーズがあるのではないかと考える青山さん、青山さん自身も探究的な学びの重要性を認識されている実践者の一人ですが、青山さん自身が伝えきれなかった探究のデザイン手法を矢萩さんや粕谷さんから学んだといいます。そんな経験から、まずは教員の方々に参加して欲しいと考えています。

「学校教育業界も探究型の学びを少しづつ導入される先生が増えている感じはあります。しかしながら、年々増加している膨大な知識や必要な学びを効果的に教えることは容易ではなく、現場の先生方はどのようにして生徒に教えるかに時間や労力を集中させてしまいがちです。そんな中で今回のツアーを通じてあらためて実感したことは「知識を教えるのではなくて学び方を提供する」こと。このことに尽きると思います。そんな意味でも、探究的な学びのメソッドを学ぶことができる今回のツアーは教育者にこそニーズがあるのではないかと思っています。

「伊豆大島は、数万年前から続く火山活動の痕跡が豊富にあるだけじゃなく、そんな荒々しい環境を生き抜いた動植物が今もありのまま生きていたり、人間の暮らしとか歴史や文化、産業が「一つの物語」としてあって、全て必然性を持って生まれています。それらを紐解くことで豊かな学びの機会を提供することができる。島全体がジオパークなんですよね。学びの素材として申し分ないと思います。切り口やアイデアはいくらでもあります。」と粕谷さん。

これからの学びをデザインする。

粕谷さんと青山さんのコンビネーションによって、今後ますます地域の教育が面白くなっていきそうです。

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