『僕らが島旅に出る理由』-モニタープログラム実施レポート-
新しい島旅のスタイルの創発を目指す取り組みとしてスタートした伊豆大島ミライプロジェクト。関わりしろを生み、学びや気づきにあふれる、そんな新しい島旅を組み立てるメソッドやフレームワークを作り出すことを目指しながら取り組んできた本プロジェクトが導き出した新しい島旅の検証を行うべく、2023年2月4日・5日に1泊2日の行程でモニターツアーを実施しました。
今後も継続的に進む人口減少により縮小傾向にある島の受け皿に合わせた少人数制の着地型旅行を島の内側から創出していくことで、顧客との深い関係性が生まれ、何度も島を訪れたくなる契機となり、島との関わりしろが広がる。その結果、関係人口を増やし、地域が未来に向かって持続していくための一つの起点となるような事業を目指しています。そのためには、「物質的なモノ」より「内面的なコト」、「役に立つ」より「意味がある」に価値を感じる傾向にあると言われている現在の消費者ニーズに合致した内容にすることはもちろん、島内の様々な方々に関わっていただけるような無理のない且つ興味深い内容に仕上げなければなりません。つまり、本プログラムに参加することでサービスを提供する側とされる側双方にとって意義のある事業に仕立てる必要があると考えています。
「人生は旅である。」
ところで、旅はしばしば人生に重ね合わせて表現されることがあります。であるならば、今回のプログラムが人生の目的地を探る(見直す)ためのきっかけにつながる旅にすることはできないか?
例えば、人生の中で得た経験がベースとなって育まれてきた「価値観」は、引き続きアップデートを重ねながら、今後の人生における大切な基準にもなります。そこで、このツアープログラムを『より自分らしく生きていくために大切にしたい価値観を見つける旅』にすることはできないか?そんな問いを立てるところからモニターツアーの企画に向けた検討が始まりました。
今はパンデミックや気候変動、社会不安、そしてテクノロジーの急速な発展によって未来はより予測不可能なものになっています。だからこそ、自分なりの問いや答えにたどり着くための力が重要になっています。そんな“探究する力”のベースとなるのがあらゆる活動の根底にある価値観であると考えます。そして、普段とは異なる環境に飛び込む行為である「旅」は探究的刺激に満ち溢れたものと言えるでしょう。このツアープログラムをこれから生きていくために必要な大切にしたい価値観を見つける旅に仕立てることで、参加する意義のある魅力ある島旅にできるのではないか。そんな仮説に至りました。
6つの価値観
そこで、今回のツアープログラムを開発するにあたって、ベースとなる6つのキーワードからなる価値観を設定しました。
- RESPECTー島の環境・文化・人への尊敬や配慮はある?
- PASSIONーワクワクする取り組み?面白がれそう?
- SUSTAINABLEー単発で終わらない仕組み?搾取はしていない?
- LEARNINGー学びや気づきはある?成長の糧となる?
- COMMUNITYー関わりしろがあって、主体性を持って取り組める?
- DIALOGUEー創造的対話につながる取り組みか?
もちろん、価値観はこの6つだけではありません。人それぞれ千差万別で、さまざまな価値観が存在します。しかしながら、価値観を探る旅の入り口として主に旅先での体験を通じて触れるであろうこの6つの価値観をベースに旅を組み立てていき、旅先のさまざまな体験や出会いを通じてインプットしたことから自分が本当に大切にしたい7つ目の価値観を見つけ出そう、という考えに基づいています。
今回のツアーは1泊2日の行程。開催時期が2月初旬ということで、ちょうど椿が見頃を迎える時期と重なることもあり、今回の旅のテーマは「椿」となりました。
テーマは「椿」
椿は古くから島の生活になくてはならないものとして大切にされてきました。
種を搾って油として利用したのはもちろん、椿の木を畑や家屋を台風や季節風から守るための防風林としたり、間伐材を炭にしたり、落ちた花や実は肥料にしたり、もちろん花自体を愛でることで心の安らぎを得るなど、暮らしの中で余すことなく大切に利用してきました。
厚葉木(あつはき)がなまったといわれる「つばき」は「木に春」と書きます。この字は中国から伝来された字ではなく、日本で生まれた国字なのだとか。日本原種のヤブツバキは、今から400年ほど前に海を渡り世界に広まりました。アメリカでは園芸品種数千を数えるほどに発展。そして現在では欧米などで品種改良された洋種椿が日本に入り、多種多様な椿をみることができます。
世界へと渡り多様な品種が生み出された椿の原点であるヤブツバキ。年間を通じて雨が多く、火山島ならではの水捌けの良い土地など、伊豆大島にはヤブツバキの生育に最適な環境が整っています。そんな椿を島の人々は暮らしの中で上手に活用し、なくてはならないものとして大切に利用してきました。
1日目のインプットツアーでは、そんな椿と島との関わりについて学べるように行程を組み立てました。ここからは実際のモニターツアーの様子をお伝えしながら進めていきたいと思います。
「僕らが島旅に出る理由」
今回のツアーは下記のような行程を組みました。参加者がそれぞれのペースで島を感じて頂けるように、あまり詰め込みすぎず、ある程度余白を設けるように調整しました。
ツアー参加者は7名の募集枠に対して7名の方にご参加頂きました。この人数がこのツアーの特徴であるワークショップをはじめとした創造的対話を行う上での最適人数と考えています。
港で参加者の皆さんを迎えたあとに向かった先は東京都立大島高等学校。こちらの敷地内には教育機関として世界ではじめて国際優秀つばき園に認定された椿園があります。そんな椿園を、農林科の生徒の皆さんは日々手入れをしながら多くの方に椿の魅力を伝えるべくガイド活動をしています。前述のとおり、約400年前に世界に渡り多種多様な椿が生まれました。こちらの椿園にもさまざまな品種の椿が植えられていて、約380種類、1,000本以上の園芸品種、原種を管理されています。そんな園内でいくつかの品種をピックアップしてそのユニークなストーリーや特徴などを丁寧にガイドしてくれました。どのお話も初めて聞く情報ばかりで椿の奥深い世界に皆さん終始興味津々の様子でした。
大島高校の生徒さんによる椿ガイドを体験した後はワークシートにそれぞれが感じた気づきや学んだことをメモしていきます。あらかじめ配布したワークシートに記録していくことで、旅先で感じた心の変化や気づき、得た知識や情報をしっかりインプットします。そして、参加者の皆さんやスタッフの方との対話を通じて、それぞれが体験から感じたことを共有していくことで、地域における取り組みやその土地における椿の役割をより深く理解していくことにつながり、さらに興味や関心が深まっていきます。
圧倒的体験がお互いの距離をグッと近づける
大島高校における取り組みを体験した後は、壮大な自然体験へと出掛けます。続いて訪れたのは、火山の噴出物であるスコリアが一面に広がる伊豆大島が誇る絶景スポット『裏砂漠』。「裏砂漠」は国土地理院が発行する地図に唯一「砂漠」と表記された富士箱根伊豆国立公園特別保護地区に指定されています。まずは裏砂漠ができた仕組みや特徴を伝えるべく、ミライプロジェクトメンバーで伊豆大島ジオパーク認定ジオガイドの神ちゃんが案内します。
裏砂漠といえば強烈な風が吹くゆえに植物が定着しづらい場所でもあります。この日も猛烈な風が吹いていて、裏砂漠の絶景とともに圧倒的な自然の力を否応にも体感することになりました。普段の生活ではなかなか味わえないエクストリームな体験は、思考がゼロ状態にされるとともに、体験を共有しているメンバーとの一体感が深まります。今回のような圧倒的な大自然を前提情報無く体感することで、ツアー全体の緩急やメリハリが生まれ、良い効果を生んでいると感じました。
没入体験を通じて自分の殻を破る
続いて訪れたのは、椿の実(殻)を使った創作活動を行っている「KARARA」の杉本美佳さんの工房。大島は椿や椿油が有名でよく知られていますが、美佳さんは椿の実(殻)や種を収集して作品づくりの素材として利用しています。
この椿の実(殻)の部分はこれまで畑の肥料にしたり、活用されずに土に還ったり、処分されたりしていましたが、美佳さんはそんな椿の実(殻)に着目して有効活用することで、椿の新たな魅力を引き出すとともに、かつては余すことなく広く活用されていた椿本来の力や島民の暮らしの知恵を知っていただく機会にしたいと考えています。
一言で椿の実(殻)といっても、素材として利用できるまでには多くの時間と手間がかかっており、どの工程も自然の循環を意識した環境負荷のない手作業によるもの。すべての活動に自然への敬意が感じられて美佳さんの人柄や椿への愛を感じさせてくれます。工房も農作業の倉庫として利用していた場所を再利用していて、かつての島での営みが垣間見れるような素敵な場所でのフォトフレームづくりとなりました。
美佳さんからつくりかたの説明を受けた後、自由に椿の実(殻)や種を配置、接着していきます。先ほどの裏砂漠での強烈体験とはガラリと変わって、今度はじっくり自分の内面へと入っていく作業。皆さん黙々と作業に集中していました。これまでの行程を通じて、参加者の皆さんがどんどん打ち解けていく様子も見て取れて、まさに心の殻を破って皆んなとの交流や体験を楽しんでいる様子が伝わってきました。
食を通じて循環を知る
夜は伊豆大島クエストハウスにて夕食を囲んでの交流会となりました。この日のメイン食材は椿の実や明日葉を飼料として育てた「かめりあ黒豚」を使った鍋。黒豚生産者であるかめりあファーム代表の小坂さんにもお越し頂き、「かめりあ黒豚」の特徴や飼育のポイント、苦労話についてお話して頂きました。
「かめりあ黒豚」は椿の実がイベリコ豚の飼料として知られるどんぐりの実の成分に近いことに着目して、椿の実を飼料として利用することで、伊豆大島の新たなブランド豚として販売・展開しています。椿油を搾ったあとに残る椿の実や商品として販売できないような明日葉を黒豚の飼料として活用することで、廃棄物削減にも貢献しています。また、豚糞堆肥の製造も行っていて、一次産業におけるコラボレーションにも積極的に取り組まれています。何より放牧飼育により黒豚をストレスフリーに育てるアニマルウェルフェアを心がけることで、より安全で良質な豚肉の提供を実現されています。
小坂さんの取り組みについてはこちらの記事に詳しく紹介しているので、興味のある方はご覧ください。
島の可能性をひろげる
島内唯一の完全放牧豚、伊豆大島初のブランド豚を誕生させようと奮闘するひとりの島民のプロジェクトをご紹介します。離島が抱える課題と可能性、島の恵まれたフィールドを最大限に活かしながら、ここでしかつくれないものを手がけるひとりの青年をご紹介することで、東京の島「離島区」のポテンシャルを伝えます。
1日目は椿をテーマとした様々な体験や活動を知るインプットの時間としました。2日目はインプットを通じて得た気づきや学びを整理して、参加者の方々との対話を通じてさらに深めていきます。
振り返りと対話の時間
2日目は振り返りと対話の時間。昨日インプットしたフィールドワークで得た気づきや学びを振り返りつつ、自分の中で大切にしたいことや、これからの人生において参考にしたいことなどを自分の言葉にして新たな7つ目の価値観を探り出すワークを実施します。もちろん、参加者の皆さんとの対話やコミュニケーションを通じて、ブラッシュアップすることも忘れずに行っていきます。
その前に、今回のプロジェクトにアドバイザーの立場で当初から関わって頂いている編集者であり逗子で土曜日だけの珈琲店を営むアンドサタデーの庄司真帆さんが淹れる美味しいコーヒーを頂くことからスタートしました。珈琲は生活のあらゆる場面に前向きに作用してくれる最適なツールだと思っていて、アンドサタデーさんのオリジナルブレンドはさっぱりとした中にも心地よい酸味が美味しい。これから始まるワークに向けて気持ちを整えるのに最適な一杯となりました。
まずは、みんなで輪になってこれまでの旅を振り返ります。参加する前と今の気持ちの変化や今回のツアーの感想を共有していきました。陽だまりの下で美味しいコーヒーを片手に参加者それぞれが何を感じて、思い、考えたのかを語り合う場は何物にも変え難い貴重な時間となりました。1日目にじっくりとインプットできたからこそ、こうしてアウトプットの時間に同じ体験をした参加者とともに深く共有することができる、とても豊かで尊い時間。日々仕事に追われる毎日を過ごす中で、日常とは異なる場所に足を運び、偶然その場に居合わせた方々や地域の営みの中で生まれ、育まれてきた様々な価値観に触れることで、自分が持っている価値観をリフレーミングしていく作業はこの旅ならではの醍醐味なのではないかと思います。
仕上げの時間
最後の仕上げとして、この旅で導き出された大切にしたい価値観を表現した言葉を考えて書道でしたためます。書きたい言葉を筆にのせてすぐに書き始める方から、しばらく悩み続ける方まで、実にさまざま。書道は自分の心がそのまま映る鏡のようなもの。しっかり自分と向き合いながら筆に気持ちを込めていきます。この作業がまさに旅の集大成としてとても良い効果を生んでいるなと思いました。書き上げた書をチェキで撮影して、昨日つくったフォトフレームに収めます。自分だけのたくさんの想いが詰まったお土産の完成です。
というわけで、「僕らが島旅に出る理由」モニタープログラムは無事に終了しました。後日用意したアンケートにも多忙にも関わらず細かく丁寧に書いてくださり、今後の事業化に向けて大変貴重なご意見をたくさん伺うことができました。引き続き、より社会的意義を持った価値あるツアーを目指して取り組んでいきたいと思います。
ご参加いただいた皆さま、ご協力いただいた関係者の皆さま、ありがとうございました!
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