風を集め、違いをおもしろがる― 竹芝×大島 高校生交流事業レポート

 2026/08/11

2026年7月12日(日)、港区芝地区総合支所が実施する「竹芝プロジェクト〜ともに繋がる未来へ〜」の一環として、東京都立芝商業高等学校と東京都立大島高等学校による交流事業が開催されました。

昨年度に続き、2回目の現地大島での交流。今回の舞台となったのは、伊豆大島南部に位置する波浮港です。

今年度は「大島で感じた『風』を集めてみよう」をテーマに、風車や風見鶏の制作、まちを歩きながらのフィールドワーク、クレヨンを使った創作ワークショップを実施しました。普段は目に見えない風を、強さや向きだけでなく、温度、湿度、音、匂いなど五感を通して観察することで見えてきたものとは。

竹芝と伊豆大島、異なる地域で暮らす高校生たちが、同じ風を感じ、互いの違いをおもしろがった一日をレポートします。

一年ぶりの再会から始まった一日

当日の朝、竹芝を出発した芝商業高校「ひがた部」の生徒たちを、岡田港で大島高校の生徒たちが出迎えました。今回、大島高校から参加したのは、離島留学制度を利用して入学した生徒3名と、昨年度から継続して参加した生徒1名です。

芝商業高校の中にも、昨年度の交流事業以来、約一年ぶりに伊豆大島を訪れた生徒が多くいました。

港で大島高校の生徒たちと再会すると、初めての土地を訪れたときとは少し異なる、どこか「大島に帰ってきた」ような安心した雰囲気が漂います。昨年度の交流が一日限りの体験で終わらず、再会を楽しみにする関係へとつながっていたことが感じられる、うれしいスタートとなりました。

「風待ちの港」波浮港へ

岡田港から波浮港へ向かう途中には、伊豆大島を代表する景観の一つである「地層大切断面」を車窓から見学しました。

過去約1万8,000年間に繰り返された噴火によって、幾重にも噴出物が積み重なったダイナミックな地層。伊豆大島が火山活動によって生まれた島であることを、目の前の景色を通して感じてもらいました。

波浮港に到着した一行は、中通りにある宿泊施設「Stay Do」へ。

今回のプログラムでは、波浮港の地形や歴史、そこで営まれてきた暮らしを読み解く手がかりとして、「風」に注目します。波浮港は、かつて船が航海に適した風を待ったことから、「風待ちの港」とも呼ばれてきました。海に面した港、高台へと続く坂道、周囲を囲む地形、建物の間を通り抜ける風。同じ波浮港の中でも、場所によって吹く風にはさまざまな違いがあります。

果たして、どのような風と出会えるのでしょうか。

一緒に手を動かすと、会話も動き出す

フィールドワークの前に、今回のワークをデザインしたワークショップデザイナーの酒井さん(株式会社フロンティアコンサルティング)によるファシリテーションのもと、チームごとに風車や風見鶏を制作しました。形や色、飾りつけについて相談しながら、それぞれのチームらしさを取り入れた作品をつくっていきます。

昨年度の振り返りをもとに、今回は会話だけで交流を促すのではなく、プログラムの初めから一緒に手を動かす活動を取り入れました。材料や道具を渡したり、作り方を教え合ったりするうちに、初対面の生徒同士の間にも、少しずつ自然な会話が生まれていきます。

離島留学制度を利用して大島高校へ入学した生徒に対して、芝商業高校の生徒からは、

「実際に大島で暮らしてみてどうだった?」
「来る前に想像していた生活とのギャップはあった?」

といった質問も寄せられました。

同年代だからこそ交わせる率直なやり取りを通じて、島で暮らし、学ぶという選択が、少し身近なものとして感じられたようです。

完成した風車や風見鶏が外の風を受けて回り始めると、あちこちから楽しそうな声が上がりました。

波浮港の風を、五感で集める

完成した風車や風見鶏を手に、伊豆大島ジオパーク認定ジオガイドの神田遼さんとともに、波浮港を歩くフィールドワークへ出発します。

はじめに神田さんから、立体模型を使って波浮港の成り立ちや地形について教えていただきました。かつての火口湖を生かしてつくられた港と、それを囲む高低差。その地形によって風の向きや強さが変わり、人々の暮らしや産業にも影響を与えてきたことを学びます。

続いて、波浮港の名所の一つである「踊り子坂」を登り、高台から港と集落を見下ろしました。模型で見た地形と実際の景色を重ねることで、海と港、集落の関係が立体的に見えてきます。

その後はチームに分かれ、自作した風車や風見鶏を使いながら、風向きや強さ、温度、湿度などを記録しました。さらに耳を澄ませて風の音を聞き、草木の揺れを眺め、潮や植物の匂いを感じながら、「オノマトペで表すと、どのような風か」も考えていきます。同じまちの中でも、高台、坂道、港の近く、建物の間では、風の表情が異なります。

フィールドワークの途中には、大島高校の生徒が、自分の知っている波浮港の場所や地域の魅力を紹介する場面もありました。おすすめのたい焼き店を教えてもらい、実際に立ち寄るチームも。自然環境について学ぶだけでなく、島で暮らす高校生の案内を通して、波浮港の日常に触れる時間となりました。

一緒に食べる時間が、距離を近づける

フィールドワークのあとは、ゴハンヤコンによる、島の食材を生かしたお弁当をいただきました。

生徒たちは運営スタッフに促されることなく自然に声を掛け合い、海の見える場所へ移動して、並んで昼食を取っていました。学校生活や趣味、島での暮らしについて、自分たちのペースで話す高校生たち。共同制作やフィールドワークのように、共通の目的を持って活動する時間だけでなく、何気ない会話が生まれる「余白」も、互いの距離を近づける大切な時間となったようです。

午後は、芝商業高校「ひがた部」による活動紹介から始まりました。
竹芝干潟で活動する人を増やすためのポイントカードや、干潟に暮らす生き物の魅力を伝える絵本づくりなど、生徒たちが日頃から取り組んでいる活動を、自分たちの言葉で紹介しました。

竹芝と伊豆大島では、環境も地域の規模も異なります。一方で、身近な自然に目を向け、それを守り、魅力を伝えようとする姿勢には、共通するものがあります。伊豆大島について竹芝側が一方的に学ぶのではなく、それぞれが自分たちの地域や経験を伝え合う、双方向の交流となりました。

見えない風を、色と線で描く

午後のワークショップでは、フィールドワークで集めた風を、クレヨンを使って表現しました。色の濃淡や塗り方で風の温度や湿度、強さを表し、線の形や方向によって風の動きや流れを描いていきます。参加者は、自分が観察した風の中から特に印象に残ったものを一つ選び、画用紙へ自由に表現しました。

同じ時間、同じ場所で感じた風であっても、選ぶ色や線の太さ、描かれる形は一人ひとり異なります。作品が完成すると、観察した場所と結びつけながら波浮港周辺の地図に配置し、参加者全員で一つの「風マップ」をつくりました。

高台を吹く風、坂道を通り抜ける風、港から届く湿った風。地図の上に作品を並べることで、場所による違いだけでなく、それぞれの感じ方や表現の違いも目に見える形になっていきます。

最後は、一人ずつ自分が感じた風と、作品に込めた意図を発表しました。

「草の匂いと海の匂いが混ざっていた」
「いる場所によって風の音が違った」
「同じ風でも、場所によって強さや向き、匂いがまったく違った」

発表では、風の方向や強さだけでは捉えきれない、五感を通じた気づきが次々と共有されました。

芝商業高校の生徒からは、竹芝のビル風と、波浮港の海や山、草木の影響を受けた風との違いについても声が上がりました。一方、伊豆大島で暮らす生徒にとっても、普段から知っている波浮港を「風」という視点から見つめることは、新鮮な体験となったようです。

風がつないだ、その先へ

参加者アンケートでは、風車を持って歩いたことや、波浮港を散策したこと、大島高校の生徒と話したことなどが、印象に残った場面として挙げられました。また、「風という共通の話題を通して、初めての人とも交流できた」という声も寄せられています。

今年度は、昨年度の参加者である芝商業高校の卒業生も、自発的に事業へ参加しました。
一度の交流をきっかけに伊豆大島への愛着が生まれ、卒業後も再び島を訪れる。今回の再会は、この取り組みが単発の体験ではなく、少しずつ継続的な関係へと育っていることを感じさせてくれました。

帰路ではジェット船の欠航により、急遽、大型客船へと変更になりましたが、関係者の皆さんの迅速な対応により、生徒たちは無事に竹芝へ戻ることができました。

目には見えないけれど、確かにその場にあり、場所によって違う表情を見せる風。風を集め、描き、互いの感じ方を伝え合ったことで、高校生たちは地域の違いだけでなく、一人ひとりの感性や視点の違いにも出会いました。

この日、波浮港を吹き抜けた風が、竹芝と伊豆大島を行き来する新たな関係を育てていくことを期待しています。

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