地域と人、集中する人つなぐ人

 2022/10/03

「お店の雰囲気が島らしくないとよく言われました。焼酎売りたいのか売りたくないのかわからないってね。笑」

そう語るのは、八丈島で酒屋「山田屋」を営む山田達人さん、スタイリッシュな店内には八丈島の産品をはじめ、さまざまな商品が陳列され、カフェスペースも備えた食のセレクトショップといった趣。店内を見てまわるだけでも楽しくなってきます。

今回は離島経済新聞の企画として、キャッシュレス決済が広がりつつある東京の島々で、キャッシュレス化によってどれほど身軽な旅ができるのかを伝えるべく、私たち『東京都離島区』編集部が訪れた八丈島での取材の中で出会った山田屋店主の山田さんのお話をご紹介します。

地域を知り、つくり手の想いに寄り添う

「以前にワインの販売に力を入れていこうと、南フランスを視察で訪れたときのこと。現地の農園のご主人にお話を伺っていると、自分が育てたワインの話ではなく、まず自分が暮らす地域の魅力や良いところを色々とお話してくれたんです。普通なら自分がつくったワインの話を真っ先にするだろうと思っていたので意表をつかれたのと同時に自分の地域を誇りに思う気持ちが強く伝わってきました。さらに『あなたのところの自慢は何ですか?』と質問を返されたときに素直に応えられない自分がいて、思いがけずショックを受けました。それ以来、地元のことや地域の生産者のことをもっとよく知ろう、向き合おう、そして、大切にしようと思うようになりました。」

「一方で、ものづくりに地域は関係ないとも思っていて、どこの地域であれ、つくり手は常に苦労や失敗を重ねながら並々ならぬ想いや労力を注いでいるわけで、私たち小売業者はそんなつくり手の心がこもったもの、汗をかいてつくられたものを置かせてもらうことで商売をしている。だからこそ、商品の魅力やつくり手の想いをしっかりと自分の中で理解して丁寧に伝えていきたい。商品の背景に隠れたストーリーを丁寧に伝えることでお客様にできるだけ多くの魅力や価値を届けていきたいと思っています。ただし全ての商品のストーリーを毎回お客様に直接伝えていくことは現実的に難しいので、ポップをつくって店頭に掲示したり、SNS等を通じて情報発信するなどしてなるべく知ってもらう機会をつくる努力をしています。」

『地域を知り、つくり手の想いに寄り添う。』

仕入れた商品をただ並べて売るだけでなく、商品の背景に隠れた“コト”を紐解いて伝えていく。山田さんは海外での体験を通じて確信した“モノ”を売ることの本質を噛み締めます。

東京諸島を広めたい

「東京諸島をあらためて見回してみると本当に面白い地域だなと思いますね。だから自分が生まれ育った八丈島だけ薦めるのではなく、他の東京の島にもぜひ行って欲しいなって思います。東京の島はどこも個性的で魅力的。他の島を訪れることで、八丈島の新たな魅力を発見することだってあるはずです。なので、観光のお客様には他の東京の島もどんどんオススメしています。私の言葉を受けて実際に他の東京の島を訪れた観光客が『八丈島の人にオススメされました』って現地の人に伝えていたら良くないですか?!笑。ひとつの島だけでなく、東京の島々から考えることで、大きな可能性を感じています。」

「日本には魅力的な観光地が数多くありますが、まずは東京諸島を巡って欲しい。八丈島だけでなく、東京諸島というエリアを巡ってもらえたらきっとその表情の豊かさや素晴らしさに気づくはずです。そうしたら何度でも東京の島々を訪れたくなるだろうし、きっとまた八丈島にも戻ってくる笑。」

「そうやって常に俯瞰的にモノゴトを見つめながら、こちらから与えていく姿勢を忘れずにいたいですね。与えることで、いつか返ってくる。決して見返りを期待しているわけではなくて、世の中ってそうやって動いている気がします。」

「そんな思いもあって、弊社が運営しているECサイトは『しまーけっと東京』と名付けました。八丈島だけでなく、大島から小笠原まで東京の島々の産物をどんどん仕入れて売っていきたいと思っています。」

地域を豊かにするふたつの役割

「私は以前に羽村市と八丈町の子供たちの交換留学『羽村×八丈エコ教室』や、八丈島における再生可能エネルギーに関する取り組み、島焼酎や島の産物の海外マーケティングなど、本業もそこそこにNPOや商工会を通じて様々なプロジェクトに関わり、よく外に出て活動していた時期がありました。」

「そんな時にある得意先の人から『僕はあなたのように多方面に関わっていくようなことは全く考えていなくて、自分のことだけしかやりたくない。』と言われたことがありました。当時、良かれと思い忙しく各方面へと動いていた自分に対して予想もしなかった一言を受け、最初はその言葉の意味が理解できなかったのですが、よくよく考えてみると、“自分のこと”と言いつつも、その人がやっていることは島の産業と呼べるものになっていて、観光コンテンツとしてもそのお店がないと楽しんで帰れないくらいのレベルになっていました。多動的な活動をしていた当時の自分は思い返せばそうした活動が好きでやっていたわけで、地域の人のためになっているという自負心はあくまでも自分から出てきた感情であって、どう感じるかは人それぞれなんですよね。そんなことがあって、さまざまな事業に関わり多方面へのつなぎ役として活動する自分と、本来業務である山田屋の代表として一つの事業に集中する自分、どちらの立場が本来取り組むべき自分の姿なんだろう?と深く考え込む時期がありました。」

「そして気づいたのが、様々なモノゴトをつなげるコネクション役として活動することは大切だけれど、それは地域の中で本気で頑張っている人の存在があってこそ成り立つということ。どちらも不可欠で大切な役割であり、相互に作用してこそ成り立つもの。“集中”と“つなぐ”はまさに両輪なんだって、腑に落ちました。なので、最近はこの2つの役割を意識しながら動くようにしています。」

「地域で頑張っている人たちがどんどん尖っていくことで、観光客であれ地元の人であれ様々な人が集まり交わって化学反応が起こり、持続可能で展開性ある産業や事業が生まれてくる。そんな動きが積み重なっていった結果、心も自然もナチュラルな島が成り立っているんだって思いました。そして、コロナ禍において自社の存続をかけて一生懸命やらなければならない状況になればなるほど、以前その人から言われた言葉がより心に響くようになりました。そして今は本来業務である山田屋の代表として、一つの事業に集中することが私の役割なんだと考え取り組んでいます。」

コロナ禍において、飲食店や宿泊施設に対してさまざまな支援制度が講じられる一方で、卸売業や小売業に対しては具体的な支援がほとんどない中、ニュース等で厳しい経営状況を語るお店の姿をよく目にしました。そんな状況は山田屋さんも然りで、相当な苦労をされたそうです。しかしながら、現実から目を逸らさず、今出来ることをしようとさまざまな努力をされてきました。

「今は新たな仕組みを落とし込んでいく作業に集中しています。例えば、これまではお弁当の発注・仕入れは全部私がやってきましたが、今はLINE BAND等のツールを駆使しながらお得意先への発注情報を従業員とシェアして効率的に作業できるようにしています。」

「コロナ禍以降はとにかく事業の効率化を図り、コストを削減していこうと、様々なポイントを見直していきました。例えば、以前は8時半に開店していましたが、統計をとってみたら8時半から10時の時間帯の粗利が8%しかないことが分かり、よくよく調べてみたらその時間帯は主にタバコを購入するお客さまが数名ほどしかいないことが分かったんです。そこで、8時半開店を10時開店に思い切って変えました。」

「結果的に開店までの間に時間的余裕ができたので、ゆっくり落ちついてポップの準備をしたり、冷蔵庫の在庫を確認して補充したり、余裕を持って準備することができるようになりました。来週入荷予定の商品のポップを考えたりするような未来に対して能動的な仕事ができるようになったのはとても大きいですね。無駄な時間を削ることで生み出す時間が生まれる。余裕ができた分、従業員同士の会話も以前より増えて、会議をしなくても雑談で物事が自然と決まっていくようになりました。」

「もう一つ、お得意先への配送を全て翌日配送に切り替えました。これまでは即日配送をしていましたが、配送効率等のコストを考えた際に採算が合わないと判断し、得意先が多少離れることも覚悟した上で決断しました。翌日配送に切り替えることで、浮いた分のコストを業務効率化を図るアプリの導入等に回すことで、さらなる経営の安定化につながっています。」

かかっているコストを徹底的に見直すことで、無駄な業務や稼働が見えてきます。時間とお金をシビアに見つめることで、自ずとやるべきことが見えてくる。さらに、お金にならないことであっても時間があって本質的かつ大切なことはどんどんやろう!というマインドも生まれてきているそうです。

「例えば、視野を広げたり気づきの機会を設けるために視察に行くなどしていて、従業員にも積極的に参加してもらっています。いかに自分事にできるかを考えると、『百聞は一見にしかず』ではないけれど、他人から口頭で説明を受けるより実際に自分の目で見て体感した方がはるかに得るものは大きいですよね。」

あらためて焼酎の蒸留を勉強しなおそうと鹿児島大学ルネッサンスアカデミーの「焼酎マイスター養成コース」をオンライン受講しているという山田さん。常に学ぶ姿勢を忘れないこともいきいきと生きていく上で大切なこと。「東京島酒が鹿児島から伝わってきた歴史的背景をきっかけに、もう一度深く学び直したい」と考え選んだこの講座。『地域を知り、つくり手の想いに寄り添う。』そんな姿勢を追求する山田さんの強い意志を感じました。

“集中する人”と“つなぐ人”。両方の立場を経験された山田さんだからこそ見えた地域における自分の役割。そんな立場は状況によって柔軟に変化させていくべきで、そこは自分に正直に選択して取り組んでいくべき、とのアドバイスに「なるほどー!」と唸る編集部一同なのでした。

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