

伝統と革新が交差する八丈島で生まれた、新しい一杯。『くさヨ』
“くさや液”を未来へつなぐために
伊豆諸島を代表する伝統発酵食品「くさや」。独特の香りと深いうま味で愛されてきた一方、担い手の高齢化や後継者不足、原料魚を獲る漁船の減少など、産業基盤は先細りつつあります。このままでは伝統の味を支える「くさや液」自体が途絶えるかもしれない。
そんな危機感から、くさや製造の老舗・長田商店代表の長田隆弘さんと、八丈島のジャージー牛乳でチーズを手がけるエンケルとハレ代表の魚谷孝之さんがタッグを組み、くさや液由来の乳酸菌×八丈島産ジャージー牛乳でつくる飲むヨーグルト『くさヨ』が誕生しました。

長田隆弘さん(左)と魚谷孝之さん(右)
この挑戦は、「地域の宝物=人とモノ」を学びと実践で磨き、全国・世界で通用する力へ育てる『にっぽんの宝物 八丈島大会』で準グランプリ、さらに全国大会で特別賞を受賞。伝統を“新しい切り口”で未来へつなぐ、島発のイノベーションです。
世界初の乳酸菌がひらく、八丈島ならではの味づくり
—『にっぽんの宝物』をきっかけに『くさヨ』が生まれました。魚谷さんが「くさや」に着目した理由を教えてください。
魚谷さん:「ご当地の微生物を活かしたいという思いがありました。味噌や醤油、酒など、日本の発酵は“土地の風土 × つくり手の技”が生む文化。くさやも発酵の食材ですから、くさや液の微生物に着目すれば“ここでしかできない”商品になると考えました。
もう一つは、かつて“酪農の島”と呼ばれた八丈島の酪農が、本土大手企業との価格競争や流通の変化で窮地に追い込まれ、多くの酪農家が廃業し消滅寸前までいった歴史です。住民の署名活動や、意志ある個人が自力で牧場を立ち上げる動きが重なり、リードホテル&リゾート代表・歌川さんが事業を引き継いでようやくつながった。一度消えかけた産業を立て直す大変さを知り、くさやもこのまま途絶えさせたくない。そんな思いで長田さんに声をかけました。」

八丈島で通年自然放牧されているジャージー牛のミルクを使い、魚谷さんの手によってつくられるチーズは八丈島の風土から生まれた宝物
—実際にコラボが動き出したのはどのようなきっかけでしたか?
長田さん:「魚谷くんから“くさや液に乳酸菌はないか”という相談は以前からありました。ちょうどその頃、東京農業大学と共同研究を進めていて、学生さんたちが『八丈島のために役立てたい』と。2023年の夏に島内で顔を合わせて語り合い、一気に話が進んだんです。」
魚谷さん:「その後、偶然にもくさや液から乳酸菌が発見されて…いくつもの“めぐり合わせ”で、商品化の体制が整っていきました。」
長田さん:「2019年からの共同研究の初期に、うちのくさや液から世界で初めて報告される菌が見つかったこともあります。早い段階で成果が出て、本当に驚きました。今では20名近い学生が関わってくれていて、彼らの熱量には頭が下がります。」

伊豆諸島ならではの伝統食文化であるくさやを受け継ぐ長田さんの仕事は日々の手作業の積み重ねから生まれる尊い仕事だ
—コラボで特に印象に残ったことを教えてください。
魚谷さん:「八丈島出身で島の伝統産業に携わり、地域からの信頼も厚い長田さんが動くと、行政連携など物事の進み方が全然違うと実感しました。さらに、『くさや』は島のソウルフード。新商品が出ると口コミが一気に広がり、知らない方からも『教えて』と声がかかる。“島の共感エンジン”が回るのを感じました。」

くさや由来の乳酸菌と八丈島で育ったジャージー牛のミルクを使った『くさヨ』は、くさやの独特な香りもなく、すごく滑らかな食感が特徴。
『くさヨ』で挑む、“300年ぶりの水平展開”
—『にっぽんの宝物』に挑戦した狙いを教えてもらえますか?
長田さん:「伝えたかったのは『仕組みづくり』です。くさやがこのまま消えてしまう前に、くさや液の活用で未接触の層へ届ける道をつくりたい。商品単体ではなく、産業として持続する設計を示したかったんです。」
魚谷さん:「伊豆諸島のくさやは約300年、八丈島でも150年の歴史があります。これまでが“より美味しく”の垂直展開だったとすれば、僕らは“文化の水平展開”で『300年ぶりの面白いイノベーション』を起こしたい。そして、『長田さんを世界大会に連れていく』のが僕の使命でした。」

多様で有用な微生物が絶妙なバランスで作用し、独特の風味を持つ奥深い味わいを生み出している「くさや液」は八丈島の風土が生んだ宝物
—全国・世界の舞台を経験して、どのような変化がありましたか?
長田さん:「全国大会で受賞した瞬間、研究室で配信を見ていた学生たちが涙を流して喜んでくれました。あの共有体験は忘れられません。」
魚谷さん:「覚悟ある挑戦者たちと真剣勝負ができることも大きいですね。商品だけでなくブランドのビジョンまで磨き込む人たちと出会える場は、刺激的で面白いです。」
参加を迷う方へ——“無料で”磨ける稀有な機会
—八丈島でのセミナーの様子はいかがでしたか?
魚谷さん:「全国の成功事例から導いたアプローチを丁寧に紹介してくれて、『島ならこう展開できる』といったところまで落とし込む実践的な内容でした。会場の熱量も高く、グランプリ外でも自然とコラボが生まれました。」

東京八丈島の宝物グランプリより。2025年度はエリアを拡大して「東京諸島の宝物」として開催
—最後に「にっぽんの宝物」グランプリ・セミナーへの参加を迷われている方へメッセージをお願いします。
魚谷さん:「まずはセミナーだけでも出てみてください。自分でどれだけ丁寧につくっても、“自分の癖”の影響から、見落としてしまう点が必ずあると思います。他地域の仲間やプロの目に触れて、フィードバックをもらうことで、“自分が思い描いていたビジョンより先の景色”を見る機会が得られます。しかも無料で得られる。これはとても大きいと思います。」
長田さん:「2分間のプレゼンに全力で挑む。そのプロセス自体がかけがえのない経験でした。私は妻を世界大会に連れて行き、現地で『想いは世界どこでも同じなんだ』と語り合えたことが印象的でした。大人になってからの“本気の緊張”は貴重。飛び込んで得られるものは大きいですよ。」
— ありがとうございました。
『くさヨ』は、伝統食「くさや」に新しい価値を吹き込み、島のチャレンジにスパイスを加える存在になりつつあります。
“商品の向こう側にある想い”を磨き上げること。そのプロセスこそが、人と地域の未来を明るくする鍵だと確信したインタビューでした。
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東京諸島の宝物
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