観光を超えた、”暮らしによりそった旅”で見つけた島の魅力
東京都離島区では、東京の島々を”自分の可能性や価値観を拡張する場所”と捉え、「私がひろがる」をスローガンに掲げています。
過去より度重なる海底噴火を繰り返し形成されてきた南北1,000kmにもわたる東京の島々は、私たちにエネルギー溢れる地球の息吹を感じさせてくれます。大自然が持つダイナミックなパワーは、私たちを原点に引き戻し、秘めていた新たな価値観や可能性に気づかせてくれます。
今回は、そんな東京の島々と深く関わりながら、自らの価値観や可能性をひろげている島ファン、伊東佳穂さんのお話です。
「閑散期の方が面白い!」と言い切る彼女の島旅スタイルは、観光の枠を超えて、例えば、知り合った島の方が所有する椿の庭園の手入れや、宿の開業準備のお手伝いなど、”島の暮らしに寄り添った一歩踏み込んだ旅”を実践されています。
伊東さんが島とどのように関わり、その過程でどのような変化があったのか、足跡を辿っていくと、新しい旅のスタイルが見えてきました。
伊東佳穂さん
webディレクターとして、温浴を軸にウェルネスな暮らしを発信するメディアの企画・制作業務に従事。
2015年に初めて神津島に訪れて以来、伊豆諸島の豊かな自然と独自の文化に惹かれ、三宅島・大島を中心に年数回島を訪れている。
平日は会社員として働く一方、休日は自分のスキルを活かして何かに貢献したいという想いで、プログラムへの参加やボランティアを行う他、最近は独自にツアーを企画し、友人達に島を紹介するなど、彼女ならではのスタイルで伊豆諸島との関わりを続けている。
単身で島に飛び込んだことで、出会えた人と経験
今ではすっかり島の魅力にハマっている伊東さん。
島との出会いは、三宅島で宿の開業準備をしていた島民とのつながりがきっかけでした。
「大学生のとき、『僕らの家』というキャンプイベントに参加しました。アウトドアとは程遠い家族だったので、自然に触れることは少なく、今まで経験したことがないことに挑戦してみたいと思い立ち、単身でキャンプイベントに飛び込みました。
そこで出会ったのが、これから島で何かやりたい!と考えていた当時のいと〜まん(現:TIAM代表 伊藤奨)です。
いと〜まんは、私がこれまで出会ったことのないエネルギーに満ち溢れた人で、自分の意思で起業をしようとする姿に、面白い人と出会ったなと思いました。」
大学生だった伊東さんにとって、そのキャンプでの出会いや体験はすべてが新鮮でした。そしてキャンプから戻った後、いと〜まんから1通の連絡を受けます。
「いと〜まんが三宅島で3泊4日の『島暮らし体験プログラム』を企画していて、モニターとして参加しないかと誘われました。スケジュールもガッチリ決められたものではなく、何をするか一緒に考えたいという内容だったことが、参加した理由として大きかったです。島を全く知らない私にとって『島暮らし体験』という言葉にも、すごく惹かれました。
島暮らし体験プログラムでは、明日葉農家さんでの収穫体験や三宅島のガイドツアーに参加し、島の歴史や風土を学び、夜はみんなで島食材を使ったごはんを作るなど、楽しく過ごしました。まるで本当に島で暮らしているかのような、島の暮らしに寄り添ったプログラムに参加できたこと、そして、島ならではのゆったりとした時間を感じ取れたのがよかったです。」
島暮らし体験を通じて、伊東さんは大切なことを学んだといいます。
「一番驚いたのは、全員が単身で参加していたことです。集まったメンバーはみんな個性豊かで、面白い大人が集まったなという印象がありました。3泊4日を一緒に過ごせるかな…と最初は不安でしたが、長い時間を共にしたことで、自分自身について振り返る時間になったし、将来どんな大人になりたいか考える機会になりました。
そして何よりも、島での遊び方を学びました。
朝は日の出から始まり、お昼は海を見ながらお弁当を食べ、堤防から海に飛び込んで、砂浜で日向ぼっこをして、夜はBBQと焚火をしたあと、駐車場に寝そべって流れ星を探す。
1日のほとんどの時間を外で過ごし、子どもに返ったかのように自然を満喫した時間は、新鮮で新しい体験でした。」
島に関わり続けたから、変われたこと
学生時代の大きな出会いをきっかけに、社会人になった今でも東京の島々に通い続ける伊東さん。島との関わりの中で変化したことを教えてくれました。
「大学生の時は、どの大人も自分にとって大きく見えて少し距離がある印象でした。事業に関わったことがなかったので、移住もしていない、島民ではない人が無責任な気持ちでは何も力になれないと少し諦めていました。
でも、社会人になって、仕事の作り方が分かるようになってきて、島の課題や魅力をより深く知るようになり、私も何か力になれるかもしれないという気持ちが大きくなりました。例えば、椿園の手入れのお手伝いをしていたとき、椿園を観光に生かす方法を考えてみたり、椿を活用したこんなイベントができるのではないかと気付くようになったと感じています。
また、島で多くの人と関わりを持つ中で、2拠点生活をしながらゲストハウスを営む人や伊豆大島の椿油を使ってオリジナル商品を作ろうとしている方と出会い、島との関わり方は想像以上に多様であることを知りました。そして、関わり方も自由でいいんだと思えたことが、今でも東京の島々と関わり続けている理由だと思います。」
島と関わるためのマイルール
伊東さんと話をしていると、相手の懐に飛び込むのがとても上手だなと感じます。
愛嬌のあるニコニコした表情に癒され、自然と引き寄せられる素敵な魅力を持っています。そんな自身の魅力も手伝って様々な島の方との関係性を築いてきた伊東さんですが、島と関わる上で2つのマイルールがあると言います。
「一つ目は、名乗ること。名乗ると言っても、名前や肩書きではなく、『いつから島に来て、いつ帰るか』『どこに泊まっているか』『島には何回訪れたことがあるか』は必ず伝えています。島は大きな家族みたいだと思っていて、宿泊先やオーナーさんのことは島で出会う人みんな知ってるんです。そこから広がる話も多く、島が好きという気持ちを伝えられたら、ちょっと深い話ができる気がします。観光客としての関係性から一歩踏み込めた方が、私もまた来たいなと思えますし、あわよくば何か手伝えることがあればいいなと思っています。(笑)」
「二つ目は、予定を組みすぎないこと。島は天気予報も当たらないことがあるし、自然の変化や影響が大きいじゃないですか。でも、雨の日にしか見られない景色だったり、どんどん変わる島ならではの天候も、島の醍醐味だと捉えると、もっと面白くなると思います。
このマイルールは、島の人の暮らしぶりから教えてもらいました。もちろん、最初は『雨か…』と落ち込むこともありましたが、何度も島を訪れて、島の人が天候の変化に柔軟に対応している姿を見て、落ち込んでいた自分がもったいないと思えるようになりました。」
ここまでの話を聞いていると、伊東さんの吸収力の高さを感じ、「吸収力が高いですね!」と伝えると、意外な反応が返ってきました。
「島に住んでいる人ってみんな吸収力が高いんじゃないかと思うんです。島名物の盆踊りもすごく悪く言えば、ただ踊っているだけなのに、あれだけ楽しく盛り上がれる。感性の豊かさはもちろん、人間誰もが本来備えている“生きるチカラ”を垣間見た気がします。」
今度は、自分が島と出会わせる側に
東京の島々を何度も訪れている伊東さんは、今後どのような展望を抱いているのでしょうか。島の暮らしに寄り添った旅を通じて、伊東さんならではの未来の姿が見えました。
「島に何度も訪れる中で、島の人たちに温かく迎えていただき、たくさん背中を押してもらいました。島との関わりを通じて、自分自身も大きく成長することができました。
そんな素晴らしい経験をさせていただいたからこそ、今度は私が島の魅力を発信していきたいと思っています。
心の中でモヤモヤした気持ちを抱えている人に、都内から2時間で着く島があることを知ってもらい、島の雄大な自然や心温まる体験を通じて新たな方向性を見つけて欲しい。島はそんな機会を与えてくれる特別な場所なんだということを私自身の経験とともに伝えたいです。
これまでの経験を活かして、興味を持ってくれた人を連れて、毎週末のように島を訪れる旅が実現できたら、島ファン冥利に尽きますね笑。」
伊東さんが見つけた島との関わり方は、観光という枠を超えて、島の暮らしに寄り添う旅でした。様々な表情を見せる壮大な自然と向き合い、そして、寄り添いながら、じっくり長い時間をかけてその土地の暮らしや文化を築き上げてきた島の人々と触れ合う中で、それまで気づかなかった自分自身の可能性が少しずつ広がって、島が持つ奥深い魅力に惹かれていった様子が彼女の曇りのない晴れやかな笑顔から伺うことができました。
島には、私たちを豊かで前向きな変化へと導く大きなチカラが宿っているのかもしれません。
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