島に移住して“自分らしい農業”を拓く——伊豆大島・駒村さんの挑戦

 2025/08/21

伊豆大島で農業に取り組む駒村さん。かつて教員だった彼が、仲間の一言をきっかけに島へ移住し、新規就農制度を活用して農業を始めてから8年。明日葉やレモングラスの栽培、地域とのつながりを大切にしながら、自分らしい営みを広げています。駒村さんの歩みは、「島で自分らしく働く」ことを考えるヒントにあふれています。

島に渡ったきっかけは「仲間からの一言」

駒村さんが大島に移住するきっかけとなったのは、大島出身の後輩から聞いた島の切実な状況でした。

「大島は人口がどんどん減少していて、幼い頃から通っていた商店が次々に閉店している。さらには2013年の土砂災害で多くの農家さんが被害を受けて続けられない状況になっているんだ」

そう語る後輩の姿に、大島の現実を突きつけられたと言います。当時、大島町の新規就農制度に参加していた後輩から「農業で一緒に島を復興させていきませんか?」と誘われたことが、駒村さんの背中を押しました。

駒村さんとその後輩は学生時代に、東日本大震災の被災地支援を行うボランティア団体を運営していました。その頃から後輩は、大島への強い思いを語っていたそうです。
「社会人になっても変わらないその熱意に触れたとき、自分の心にも自然と伝わってきたんです」と駒村さんは振り返ります。

当時は中学校の教員という安定した職に就いていましたが、思い切ってキャリアを手放し、大島で農業に挑戦する道を選びました。

新規就農制度からのスタート

駒村さんはまず、大島町が実施している「新規就農制度」に参加しました。2年間にわたり、農業の基礎や島特有の栽培環境に適応するための知識を学び、地元の先輩農家から実地で指導を受けました。

「土づくりや肥料の知識、病害虫対策など、学ぶことは本当に多かったです。最初は失敗も重ねましたが、島の方々の助けがあったからこそ乗り越えられました」

制度を修了後、独立して明日葉農家としてのキャリアを歩み始めました。気づけば7年。今では明日葉のほか、レモングラスなど新しい作物にも挑戦するなど、幅を広げています。

栽培から販売へ。「人とつながることが楽しい」

駒村さんにとって農業の魅力は「作ること」だけではありません。

「農家を続けていて、僕は作ることよりも売ることが楽しいなと感じています。自分が育てた作物を介して、人とコミュニケーションを重ねていくのが何よりも嬉しいんです」

親戚に送った野菜を「美味しい」と言ってもらえたときは、言葉以上の喜びを感じたと言います。

最近ではレモングラスの栽培に取り組み、農産物直売所「ぶらっとハウス」主催のマルシェでレモングラスティーを販売。香り豊かな味わいが好評を博し、商品化に向けてパッケージづくりも進めています。

さらに、島外の飲食店へも積極的に営業を展開。自らサンプルを送り、料理への取り入れ方を説明しながら販路を切り拓いてきました。現在は「富士そば」上野店にも明日葉を卸し、そばのトッピングや天ぷらとして提供されています。

「売ることは簡単ではないけれど、対話を重ねることで少しずつ理解してもらえる。その過程自体が楽しいんです」

地域とのつながりが支える農業

もちろん、農業には課題もあります。人手不足や農地の確保は常に頭を悩ませる問題です。そんな時に駒村さんを支えてくれるのが、地域活動を通じて得た人とのつながりです。

「消防団や郷土芸能の保存会に入ったことで、地元の方とのつながりが広がりました。困ったときに助けてもらえる関係性は本当に心強いです」

伊豆大島でビールを醸造している「波浮港醸造」にはホップを提供。地域の中で様々なプレイヤーと連携を深めながら農業の可能性をひろげている。

また、新規就農者の卒業生同士で定期的に集まり、情報交換や販路拡大の工夫をしています。ハーブティの生産や加工品開発など、新しいアイデアを試しながら、仲間と共に挑戦を続けています。

「農業を島での職業選択肢のひとつにしたい。大島高校の農林科を卒業した子が『自分も農家になろうかな』と思える未来をつくりたいんです」

自分らしい暮らし方を考えるきっかけに

駒村さんの歩みは、農業を“仕事”としてだけでなく、“暮らし”そのものとして捉えている点が特徴的です。地域との関わりの中で培われるつながり、作物を通じて広がる対話。それらすべてが駒村さんにとっての「自分らしい生き方」につながっています。

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