やっちゃえ!とはじめた私たちの地方創生
東京諸島において、少子高齢化による人口の減少や産業の衰退はもはや避けられない状況の中、空き家を活用した移住・定住促進事業や創業支援事業は早急に取り組むべき重要な課題となっています。また、島内に数多く存在する空き家の中には管理者の不在から損傷の激しいものも多く、国立公園の島であり、島の経済を支える大切な産業の一つとなっている観光業にとって、放置された空き家は美しい景観を損ねる要因ともなりうる大きな問題です。
そんな中、大島内の空き家の賃貸や売却を希望するオーナーより提供された物件情報を集約し、WEBサイトに掲載することで広く発信するとともに、物件オーナーと物件の利用を希望される方とのマッチングを主な事業とする合同会社シマラボという会社が大島にあります。シマラボがマッチングした物件がきっかけで地域の人気店や有名店も生まれており、地域への経済効果は高く、その貢献度は大きく見逃せない存在となっています。今回はそんなシマラボを運営されている代表社員の古山めぐみさんと旦那さんの徹さんご夫妻にお話を伺いました。
移住のきっかけは大島の海のポテンシャルの高さ
古山さん夫妻はお二人とも島外より移住をされた、いわゆる“Iターン”。
大島を知るきっかけは徹さんが大学時代に所属されていたスキューバダイビング部の合宿で年に2回程度大島を訪れていたことに遡ります。
ハンマーヘッドシャークの群れ
大学を卒業されてからは、お二人とも会社員として働きながら都内で暮らしていましたが、ある日、大好きなダイビングで生きていこうと一念発起し、二人同時に脱サラしてダイビングの世界へと飛び込みました。その思い切りのよさ、“やっちゃえ精神”はこの頃に培われたのかもしれません。
その後、徹さんとめぐみさんはバリ島やフィリピンなど海外のダイビングショップで働きながら経験を重ねていきました。そして帰国後に学生時代によく訪れていて馴染みの海だった大島への移住を決断します。
「若い頃から慣れ親しんだ海だったということもありますが、長く美しい尾が特徴的な「ニタリ」や「ハンマーヘッドシャーク」など、世界的に見ても珍しい生き物に遭遇できる貴重な海なんです。そんなポテンシャルの高い大島の海を多くの人に伝えたいと思ったことが大きいですね。」と徹さんは言います。一足先に徹さんが移住した2002年は高速ジェット船が就航した年で、都心からのアクセスがさらに便利になったことも大きかったようです。
それから、2004年に徹さんが独立することになり、島内にショップを立ち上げるタイミングでめぐみさんも大島に移住しました。そして、お二人のダイビングショップ『イエローダイブ」がオープン。多くのお客様に大島の海の魅力を伝え続けています。
地方創生会議への参加がきっかけで新たな世界へ
ダイビング業の経営も順調に進み、めぐみさんは税理士資格を取得、島内唯一の税理士としてのキャリアをスタート。日々忙しく過ごされている中で、大島町が「大島町まち・ひと・しごと総合戦略」の策定を目的とした「まち・ひと・しごと創生会議」を設置するにあたり会議への参加メンバーを募集していることを知っためぐみさんは「民間の意見を行政に届けることで、よりよい大島にしていければ」と、町に会議メンバーへの参加を申し出ました。
少子高齢化が進む状況に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持していくことを目的とした、「まち・ひと・しごと創生法」が国で制定されました。また、2014年12月に人口の現状と将来の姿を示し、今後めざすべき将来の方向を提示する「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が閣議決定されたことを受け、国と地方が一体となり、中長期的視点に立って取組むことから、大島町においても「大島町人口ビジョン」とともに「大島町まち・ひと・しごと総合戦略」の策定を目的とした「まち・ひと・しごと創生会議」を設置して取り組むことになったのです。
めぐみさんは「まち・ひと・しごと創生会議」への参加を通じて、大島町の空き家の現状を知ることになり、空き家問題について深く考えるようになりました。そして空き家バンクの必要性を強く感じるようになり、一刻も早く動き出したいという想い一心で全くの未経験分野にも関わらず、さまざまな関連書籍を読み漁りながら制度の要点を押さえつつ、ビジネスプランの策定を進めていきました。やがて、二人で検討を重ねてきたビジネスプランが具体的に事業としてまわりそうだと思える段階に達したところで、2016年に事業運営の母体となる合同会社シマラボを立ち上げ、翌年2月にはマッチング事業のツールとして物件情報を掲載するWEBサイトを公開しました。同時にめぐみさんは宅地建物取引士の資格を取得し、いよいよ事業として本格的に動き出す段階まで進めてきました。その行動力・実行力には頭が下がります。まさに“やっちゃえ精神”ですね。
シマラボが運営するWEBサイト
移住者という立場のお二人、実際に住まいを探す際はとても苦労をされたそうで、島内をよく知る人伝でしか家を見つけることができない島の実情に問題を感じていたことが大きな原動力になったそうです。そして、そんな実体験を経ているからこそ、より危機感や使命感を持って取り組まれているのだなと感じました。
「シマラボは不動産仲介ではなく、あくまでもマッチングサービスとして事業を行っています。そのため、最終的には個人間での契約となるのですが、私たちのような第三者が入ることで、ワンクッションとなりトラブルを未然に防ぐことにも繋がっています。物件の取引にはトラブルがつきものですから。そのあたりで少しづつではありますが私たちのサービスを利用するメリットを感じていただけているようです。」とめぐみさんは言います。
需要と供給のバランスに問題アリ
全くの未経験分野から手探りで動きながらサービスのアップデートを続けてきたシマラボでしたが、1番の課題はなかなか物件の提供者が現れないこと。理由は、空き物件を所有していても特に不便や問題に感じることがない点と、年に1、2回親戚や関係者が訪れる際の場所として確保していたい、ということが大きいのだそう。一方で、たまに入る物件のほとんどは島内に関係者や親族のいない物件で、中には登記がされていなかったり、相続が済んでいない物件など、そもそも処理ができない物件や、処理ができても手間のかかる物件が多い。さらに、長いこと放置された結果植物が生い茂り道がすっかりなくなって辿り着けないほどの状態であったり、他の所有者の土地の中を通らなければ入れない物件等、物理的に難しい物件も少なくないそうです。
一方で、「移住を希望される方からの問い合わせは多いです。年間で100件は軽くきますよ。1週間のうちに問い合わせが来ない日はないくらい本当によくあります。」と徹さんは言います。
問い合わせをされる方の年齢層は30代〜50代がメインで、大島で何か事業をされたい方が多いのだとか。さらに新型コロナによる影響からか、最近はサテライトオフィスとして物件を利用したいという方の相談をはじめ、企業からの問い合わせも多く、都心から比較的アクセスのよい離島ということで注目されてきていると実感されているそうです。
圧倒的に供給が足りていない状況から、空き物件所有者に向けたアプローチも進めているのかと思いきや、むしろこちらからのアクションは控えているのだそう。
「物件所有者が自発的に空き家をなんとかしたい、という考えを持っていないとマッチングはうまくいきません。よくあのオーナーさんが物件を手放したがっているから連絡してみたら、と声をかけられますが、実際に連絡をしてみるとオーナー自身はそんなつもりが全くなかったりするケースがほとんどなのです。」
今後はオーナーさんの意識に変化を与えるような機会の創出も必要だと二人は言います。空き物件を所有するオーナー向けの相談会の開催など、町や地元金融機関の協力も視野に入れながら検討していきたいと考えているそうです。
利用者さんの活躍が私たちの励みに
シマラボをスタートして以来、さまざまな方とお話しできたり、交流できたことが嬉しいと語るめぐみさん、最近ではシマラボがサポートした物件から人気のお店も生まれてきています。
島ぐらしカフェchigoohagoo
「大島が少しづつ変化しながら活気づいていることが1番の喜びですし、それがこの事業のやりがいにも繋がっています。」とめぐみさんは言います。
具体的な例で言うと、片桐はいりさんの主演で話題となったドラマ「東京放置食堂」の舞台にもなったHav Cafeさんや、以前の記事「自分が自分であるための場所づくり」に登場した島ぐらしカフェchigoohagooさんはシマラボを通じて物件に出会っています。
Hav Cafe
シマラボがマッチングされたことで新たな移住者や事業が生まれており、その貢献度は大きい。「移住されて住宅として住われる方も多いけれども、それ以上に物件を利用して新たな事業をはじめられる方が多いのがとても嬉しい」と二人は笑顔で言います。
この先の取り組み
そんなシマラボですが、今後は1ヶ月程度のお試し移住ができる場所をつくりたいと考えているそうです。
実は大島に移住したいという問い合わせをいただく方の多くが大島に来たことがない方だったりするそうで、離島は内地とは異なる事情が多いので、島のリアルな生活を一度体験することが移住において何よりも大切だと言います。
確かに、大島にはコンビニやチェーン店もなければ夜遅くまで営業しているお店もほとんどない。東京へと向かう船や飛行機も1日にわずかしかないので、通勤で通うなんてもってのほかだが、実際に通勤しながら島で暮らしたいという方からの問い合わせもあるのだとか。「都心から近くて自然が魅力的な島で暮らしてみたい」となんとなく考えている方が多く、実際の島の状況をよく知らずに問い合わせをしてくる方がとても多いそうです。
そんな問い合わせを何度か受けているうちに、お試し移住の必要性を強く感じはじめた古山さん、そのための場所づくりを進めていきたいと考えています。
もはや、大島の活性化になくてはならない存在となっている「シマラボ」。事業を行いながら常にアップデートを続け、事業を通じて受け取った声をヒントに次なる課題を見つけてはさらなる事業展開を図りつつ、その活動の幅を広げています。古山さん夫妻の地方創生事業はまだまだ発展・進化を続けていきそうです。古山夫妻の“やっちゃえ精神”の今後に要注目です。
最後にお二人に東京諸島で”大切にしていきたいもの”について伺ってみました。
徹さん-「月並みではありますが、やはり自分が魅せられた海をはじめとした島の自然はこのままキープしていきたいですね。」
めぐみさん-「島に流れる独特なのんびりとした雰囲気や時間は大切にしたいと思っています。便利さを求めすぎたら島の個性がなくなってしまいますから。」
ありがとうございました。
合同会社シマラボ
住所:〒100-0101 東京都大島町元町 字水溜210-6
TEL:090-9152-2016
URL:https://oshimalabo.com
Let's Share
この記事をシェアするRelated articles
関連記事地域と人、集中する人つなぐ人
今回は離島経済新聞の企画として、キャッシュレス決済が広がりつつある東京の島々で、キャッシュレス化によってどれほど身軽な旅ができるのかを伝えるべく、私たち『東京都・・・
2022/10/03
中嶋農園が描く「仕事の美学」
植物という予定不調和な相手を日々注意深く見つめながら、探究心と挑戦する心を持ち合わせて、最良のプランを導き出し行動に移していく。農業の世界から美しい仕事を築き上・・・
2023/07/31