次の100年も、としまとずっと。― 利島村がメディアと拠点で育む“未来の担い手”へのバトン

 2026/06/25

全国で移住定住促進の取り組みが活発化する、今。 各地域の支援制度を比較しながら、「本当に自分に合う場所はどこだろう」と探している方も多いのではないでしょうか。しかし、条件だけでは見えてこないものがあります。それは、その土地に流れる「暮らしの手触り感」や「人とのつながり」です。

伊豆諸島に浮かぶ、人口約300人の利島村。ここでは手厚い支援制度をアピールするのではなく、「島での豊かな暮らし」を軸にした、移住定住の形を目指しています。その核となるのが、島民と協働して策定した計画『ずっとしま計画2030』です。

計画の始動に合わせ、住民が島のリアルな日常を発信するメディア『ずっとしま』が立ち上がり、2026年4月にはマルチコミュニティスペース『まごとえんがわ』が開業。島の中では、暮らしを豊かにする取り組みが着実に広がっています。

これまでも『東京都離島区』では利島村の移住定住事業を紹介してきましたが、今回は、この計画に込めた想いや、そこから生まれた村民の「やりたい」を形にする取り組みについて、利島村役場産業観光課の隅さんにオンラインでお話を伺いました。

島の子供達にインタビューを受ける隅さん

『ずっとしま計画2030』が目指すもの

各地で移住促進の取り組みが活発化するなか、利島村が未来に向けて描いた『ずっとしま計画2030』。その背景には、これまでの移住のあり方を見つめ直す動きがありました。

この計画をつくることになった背景を教えてください。

隅さん:「当時は全国で移住定住事業が活発化していて、いわば『移住者の取り合い』のような状況でした。そんな中で、利島村としてのビジョンをしっかり示す必要性を感じていたんです。

ただ、役場だけで計画をつくっても意味がないと考え、移住者を含むさまざまな職種の島民に集まってもらい、ざっくばらんに話し合う場を設けました。」

実際に開いてみて、どうでしたか。

隅さん:「これが思った以上に盛り上がりました。普段なかなか話せない悩みを共有するなかで、『うちはこうしているよ』と住民同士で意見交換が始まって、役場の私たちが間に入らなくても議論が深まっていったんです。

村の職員は業務を掛け持っているため、一つの事業に集中しきれない面があります。だからこそ、住民の皆さんの意見やパワーを借りて一緒に進めていく。これからの大切なスタンスが見えた瞬間でした。」

これまでは『島に仕事があるから移住する』というケースが多かったそうですね。

隅さん:「これまでは仕事をきっかけに移住してくる方が多く、それだと仕事が合わなくなったときに島を離れてしまうケースもありました。これからは『利島で暮らしたい』と思ってもらった上で仕事を探す流れをつくりたい。そのために、暮らしを発信していく必要があると考えたんです。

飾らない日常を届ける。村民ライターが紡ぐ『ずっとしま』

『利島村ずっとしま計画2030』の策定とともに立ち上がったのが、コミュニティ型ポータルサイト『ずっとしま』です。移住後のミスマッチを減らし、つながりを育むため、村民自身がライターとなって日々の暮らしを発信しています。

住民がライターとなる構想は、どのように生まれたのでしょうか。

隅さん:「チームで山梨県の小菅村を視察した際、『村民ライター』の取り組みを知ったんです。役場だけでの発信は情報が偏り、形式的になりがちですが、住民自身が書くことでリアルで多様な情報を届けられると考えました。」

実際に始めてみて、どのような変化を感じていますか。

隅さん:「このサイトの大きな目的は、移住後のミスマッチを減らすことです。実際、うちの妻も子育ての悩みをみんなに知ってほしいと、リアルな記事を書いて発信してくれています。また、移住して間もない協力隊の二人が、新鮮な視点で書いてくれているのも大きいですね。島に10年以上いる僕には当たり前になってしまった感覚も、移住者には新鮮で魅力的に映ることがあります。そうした発見を通じて、長く住む島民も改めて地域の魅力に気づく。そこから新しい交流が生まれていけばうれしいですね。」

計画策定の話し合いの場で生まれた住民同士の活発な情報交換。
その力を実感したからこそ、『ずっとしま』という場所が機能すると確信できたのではないでしょうか。

働く・遊ぶ・繋がる。多世代の居場所『まごとえんがわ』

『利島村ずっとしま計画2030』の策定を経て、2026年4月に集落の中心に誕生した複合型サテライトオフィス『まごとえんがわ』。ここは単なるコワーキングスペースではありません。「遊ぶ・学ぶ・働く・育む・つながる」を一体化し、子育て世代の課題解決と、多世代が自然に交流できる居場所を目指してつくられました。

― コワーキングスペースと子どもの居場所を一体化した背景を教えてください。

隅さん:「集落の中心にある古民家を活用し、コワーキングスペースをつくる話が持ち上がったのが始まりです。ただ、オフィス機能だけでは利島らしさが出せないため、子育て世代に目を向けました。島には雨の日に子どもが遊べるサードプレイスが不足していたんです。親はコワーキングスペースである『やまがわ』で仕事をしながら、すぐ隣のプレイスペース『うみがわ』で子どもを遊ばせられる。そんな利島らしい暮らしを実現できる施設にしようと考えました。」

コワーキング機能を兼ね備えた『やまがわ』エリア

子どもたちが雨の日でも体を動かすことができる『うみがわ』エリア

― 施設名や古民家を活用した空間づくりにもこだわりがあったそうですね。

隅さん:「昔、この場所が商店だった頃の屋号である『まごえん』を残して名付けました。さら地にするよりも、島の人に馴染んでほしかったので、あえてリノベーションを選びました 。これが狙い通りにはまって、地元の方からも『このネーミングいいね』って言われます 。お年寄りの方が『昔はこんなだったんだよね』って懐かしみながら立ち寄ってくれたり、中学生が勉強しにきてくれたり。もともと世代を超えた交流が生まれる場にしたかったので、こうした光景が自然に見られるのは本当にうれしいですね。」

子育て世代の課題解決から始まった『まごとえんがわ』。
今では多世代が集う地域の居場所となり、計画策定時から大切にしてきた「人と人とのつながり」を象徴する場所へと育っています。

島で育った子どもたちがいつか戻ってこられる場所へ

一見、移住者を呼び込むための施策に見える一連の取り組み。
しかしその根底にあるのは、島を離れた子どもたちがいつか帰ってこられる場所を残したいという想いです。

― 今回の計画や一連の取り組みには、未来の利島を担う世代へのどのような想いが込められているのでしょうか。

隅さん:「利島で育った子どもたちが帰ってこられる場所をつくることは、産業の維持にもつながります。利島では、民宿や漁業、椿農家など、一人が複数の役割を担って暮らしと産業を支えてきました。この生き方は外から来た方には難しく、島を見て育った子どもたちが戻ってきてくれないと、長年の産業を維持するのは難しいと感じています。」

― これから利島が目指していく未来について教えてください。

隅さん:「利島は決して便利な島ではありません。でも、ないものをどう工夫するかを考える面白さがあります。消費する側のお客さんではなく『自分がこの島を支えている』という当事者意識を持てることも魅力です。そうした価値観に共感してもらうために『ずっとしま』や『まごとえんがわ』が軸になってくれたらうれしいですね。

今後は、村が主体になるのではなくて、島民が主体となって移住に関わる事業やイベントを企画し、村がそれを補助していくような仕組みをいま検討しています。やっぱり、村がやってるからとかじゃなくて、みんなでやっていこうよっていうのが、1番の正解というか、1番いい姿なのかなと思っています。」

利島村が目指しているのは、単に人口を増やすことではありません。
移住者も、島で育った子どもたちも、一人ひとりが「ここに自分の役割がある」と感じながら暮らし続けられる社会をつくることです。

住民自らが言葉を紡ぐ『ずっとしま』。そして、多世代が自然に集い、つながる『まごとえんがわ』。これらは、その未来を支えるための新たな土台として生まれました。

『ずっとしま』『まごとえんがわ』はまだまだ始まったばかりです。これからも、利島の歩みを東京都離島区で追っていきたいと思います。

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