伊豆大島で考える、持続可能な観光 ― VCPフィールドワークレポート
武蔵野美術大学主催「価値創造人材育成プログラム(Value Creation Program)」の一環として実施されている「VCP for TOKYO Tourism」のフィールドワークが、伊豆大島で行われました。
本プログラムは「地域と人の関係を『再生』する、観光サービスデザイン講座」と題した本編5日間に加え、伊豆大島でのフィールドワークをオプションプログラムとして実施。


受講生18名が島の自然や文化を体感しながら、新たな観光体験につながるサービスを考えました。本記事では、その2日間の様子をレポートします。
春を感じる陽気の中、伊豆大島へ向かう
朝、竹芝桟橋に集合。受講生同士は約1か月ぶりの再会です。東京諸島を訪れるのが初めてという受講生も多く、出発前の港ではどこか少し緊張した表情が見られました。

ジェット船に乗り、約1時間45分。伊豆大島に到着です。
マイクロバスで三原山山頂口へ向かい、「名代 歌乃茶屋」で昼食をいただきます。

島の名物「明日葉」を使った蕎麦や天丼を味わいながら、これから始まる島での時間に期待が高まります。いよいよフィールドワークが本格的に始まります。
溶岩の大地から、自然の「再生」を感じるトレッキング
昼食後は伊豆大島観光ホテルへ移動。
ここから、伊豆大島ジオパーク認定ガイドの神田さんの案内で自然の中へ入っていきます。

ホテル横の入り口から裏砂漠までを往復するトレッキングコース。
通常は1時間ほどの道のりを、今回は約2時間半かけてゆっくり歩きました。
この日のジオガイドのテーマは「Regenerative=再生」。
溶岩流の上に植物が根を張り、少しずつ自然が再生していく。「再生の一本道」と呼ばれるこの道は、今回のプログラムのテーマとも重なります。

最初に現れたのは、木々の隙間から光が差し込む「こもれびトンネル」。
湿った土の匂い、草木の中に潜むカエル、繊細な蜘蛛の巣。
歩きながら気になった景色を見つけては足を止め、それぞれがスケッチブックに描きとめます。

やがて景色は大きく変わり、玄武岩の黒い溶岩とハチジョウススキの小麦色へ。足元も柔らかな土から、ジャリジャリとした溶岩へと変わっていきました。
この日は春を思わせる暖かな日差しが照り付け、受講生の中には思わず上着を脱ぎ、汗をぬぐう姿も見られました。
最後に斜面を登りきると、裏砂漠に到着です。
遮るもののない大空の下、太陽の熱を全身で感じます。

ゴツゴツとした溶岩の上に寝転ぶ人。靴を脱ぎ、足裏で大地の温度を感じる人。
それぞれが、島の自然と向き合う時間を過ごしていました。
トレッキングの入口から裏砂漠へと続くこの道では、景色の変化を通して、誕生、破壊、そして再生の過程をたどることができます。火山の島が繰り返してきた自然のサイクルは、この島で暮らす人々の営みにもどこか重なって見えました。
共同研究発表から見えてきた、大島の新しい可能性
トレッキングで島の自然を体感した後は、椿まつりのメイン会場である元町港船客待合所へ向かいます。

伊豆大島では、コワーキングスペース「Izu-Oshima Co-Working Lab WELAGO」を運営する株式会社フロンティアコンサルティングと武蔵野美術大学による共同研究の成果展示が行われており、この日から、椿まつり会場に特設展示ブースが設置されました。
テーマは「Nature Positive Living Lab(ネイチャーポジティブリビングラボ)」
自然を回復させながら、暮らしや働き方を豊かにしていく。そんな未来の可能性を探る研究です。

会場では、武蔵野美術大学の丸山教授・五十嵐教授、そしてフロンティアコンサルティングの稲田氏の3名によるトークセッションが行われました。
これまでの研究の歩みや、これから目指す姿についての話に、受講生は真剣なまなざしで耳を傾けていました。
島で得た気づきを言葉にする、振り返りの時間
その後、コワーキングスペースWELAGOへ移動し、チームごとに振り返りを行いました。

トレッキングで感じたこと。共同研究特設展示ブースやトークセッションから得た気づき。それぞれが持ち帰った感覚や意見を共有しながら、思考を深めていきます。
島で感じたことを語り合う合同懇親会
夜は、武蔵野美術大学の学生、教授、フロンティアコンサルティングのメンバーも合流し合同懇親会が開催されました。

ケータリングは元町の「喫茶酒場なべきち」より。島の食材「はんばのり」を使用したおにぎりや、明日葉を使ったもつ煮など、島の食材を生かした料理が並びます。

外には焚き火台が設置され、暗い夜空の中、炎のゆらめきがその場を温かく照らします。
学生と受講生が自然と交わり、伊豆大島というフィールドの可能性や学生の研究、今回のフィールドワークで得た気づきについて語り合いました。
波浮港の街を歩く朝の散策
2日目の朝は波浮港に集合。神田さんのガイドとともに、港町の歴史ある街並みを歩きます。

最初に現れたのは「踊り子坂」と呼ばれる石段。ガイドを聞きながら約240段の階段を一段ずつ登っていきます。
振り返るたび、波浮港の景色が少しずつ広がっていきました。

この日も雲一つない晴天。波浮港の高台からは、隣の島「利島」や、その先の「新島」の白い岩肌までくっきりと見渡せました。
天気の良い日にしか出会えない絶景に、参加者たちは思わず足を止め、表情をほころばせながら景色を見つめていました。
島の未来を考えるワークショップ
2日目のメインはワークショップです。約2時間、各チームで議論を重ね、アイデアを模造紙にまとめていきます。
「港の電話」島のスナックとランダムでつながる体験
「溶岩浴」溶岩の上で“ととのう”新しいリラクゼーション
など、ユニークな提案が次々と発表されました。

丸山教授からは鋭いフィードバックが投げかけられ、サービスデザインの本質を突く言葉の数々に、受講生たちは多くの気づきを得ていました。

島を訪れる前。島にいる時間。そして島を離れた後のこと。サービスは、そのすべての体験をつなぐものであるべき。
ただ島に滞在している時間だけでなく、訪れる前から帰った後までを含めた体験全体を設計することの大切さが語られ、その言葉は参加者の心に強く残りました。

発表を終えたあとは昼食の時間。
発表の緊張が解けたのか、いつの間にか芝生の上に自然と輪ができていました。
29時間の濃密な学びを持ち帰る
今回のフィールドワークの滞在時間は29時間。決して長い時間ではありませんが、自然の中での体験や人との交流が重なり、振り返るととても濃密な時間だったように感じられました。
帰りの船を待つあいだ、岡田港で思い思いの時間を過ごします。まち歩きを楽しむ人。
アイスやクラフトビールを味わう人。

「また来たい」
「まだまだ知りたいことばかり、時間が足りない」
そんな声が、あちこちから聞こえてきます。
穏やかな海に浮かぶジェット船で東京へ戻り、船を降りたころには、まるで夢を見ていたような感覚になるかもしれません。
伊豆大島で感じた「再生」という視点。
それぞれの実践の場へ持ち帰り、活かしていくとともに、今回の来島をきっかけに、これからもこの島との関わりが続いていくことを願っています。
武蔵野美術大学 VCP for TOKYO Tourism
武蔵野美術大学から生まれたデザイン経営人材育成講座「Value Creation Program for TOKYO Tourism」の公式noteアカウント。2年目の2025年度のテーマは、【地域と人の関係を「再生」する観光サービスデザイン講座】
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