地域に支えられ、地域を支える。人と人との繋がりの中から生まれる力

 2024/08/18

皆さんは商工会という組織をご存知でしょうか?
全国商工会連合会のサイトによると、商工会は主として市町村における商工業の総合的な経営の改善発達を図るとともに、社会一般の福祉の増進に資することを目的として、法律に基づき設立された「特別認可法人」で、全国で約1,600の商工会が設立されており、地域内の商工業者の経営改善や地域の発展を目的として、商工業者によって組織された総合経済団体です。今回はそんな商工会に関わる方のお話。

東京の島しょ部においても、各地域に商工会が組織されています。大島と利島を管轄する大島町商工会、新島と式根島を管轄する新島村商工会、神津島を管轄する神津島村商工会、三宅島と御蔵島を管轄する三宅村商工会、八丈島と青ヶ島を管轄する八丈町商工会、そして、父島と母島を管轄とする小笠原村商工会です。

新島村商工会青年部(以降、青年部)では今年度のテーマとして「興す集団」を掲げ、大きな変革期にあると言います。青年部副部長の青沼さんは「商工会青年部があることで、島の中で同じ方向を向いて熱い対話ができる仲間が増えました。青年部に入って世界が広がりました。」と語り、青年部の存在によって新島の未来に明るく前向きな兆しが見えてきていることが伝わってきました。

例えば、6月末に青年部が行った静岡県熱海市を中心に視察した際の報告記事がまとめられたnoteには、島外視察から得た学びを参加者の中だけに留めず、他の関心のある方々にも還元できるように視察の際に行われた講演の様子をYouTubeにアップしたり、参加者の気づきをまとめて分かりやすくシェアすべくアンケートの回答結果を公開するなど、視察を通じて得た気づきや学びを分かりやすく伝えていて、そんなアウトプットからも青年部の前向きな姿勢が伺えます。

熱海 to 網代 視察2024

新島村商工会青年部は、「衰退した観光地」の代名詞とまでなっていた熱海。その地がどのように再生したのか?その答えを探しに「熱海の奇跡」の著者である、市来広一郎氏を講師に迎え、復活の地へ向かいました。

そんな様々な工夫を凝らして青年部の活動を後押ししているのが、今回の主役である新島村商工会の西胤 輝之進(にしつぐ てるのしん)さんです。

「テルさんって任せるのが上手いんですよ。いきなり全てを任せるのではなく、仕事を役割や各工程に応じてうまく切り出してくれる。だから最終的には自分たちだけで自走できるようになるし、こまめにサポートまでしてくれるので、とても取り組みやすいです。そんな人から受けた仕事はしっかりやろうって思えますしね。」と、青沼さんも絶大な信頼をおく方です。

染まりやすいから、島にも馴染んでいけた

以前から新島に関する話題を通じて耳にしていた「テルさん」の名前。
「テルさん」とは、西胤さんのニックネーム。その名前を聞くたびに、どんな人なんだろうと以前から興味がわいていました。今回はそんなテルさんにお話を伺っていきます。

ー今日はお話しできることを楽しみにしていました。よろしくお願いします。西胤さんは東京都荒川区出身とのことですが、まず初めに「島」に関わることになったきっかけを教えてください。

西胤さん「はい、よろしくお願いします。実は新島に暮らす以前に小笠原に1年間住んでいたことがあるんですよ。都内でくすぶっていた二十歳そこそこの頃に、いいかげんちゃんと働かなきゃなぁと思って、本屋でたまたま建設系の求人誌を手に取り眺めていると「東京脱出!」という特集を見つけて、そこに小笠原の求人が載っていました。
当時からレゲエというジャンルの音楽にハマっていて、さぞや南国は楽しいだろうな…と思い、居ても立ってもいられなくなってその会社に何度も電話して採用してもらいました(笑)。それから1年間住んでみると、島の人たちが大切にしている価値観がとても魅力的に映って見えて、島で暮らすのって良いなと思いました。」

ーそんな尖った企画があったんですね。西胤さんはサーフィンもお好きだと聞きましたが、元々さまざまなカルチャーに対して敏感に反応するタイプでしたか?

西胤さん「そうですね、結構染まりやすいんですよ。すぐ影響されちゃう(笑)。今だって、まさか自分が地域の活動をする人間になっているなんて思ってなかったですから。」

好きなことが、地域のためになっている

多彩な趣味を持つ西胤さんですが、小笠原での建築現場での仕事を経て、内地に戻ってから本格的に大工仕事を始めたそうです。その後、新島出身の奥さんと結婚し、子育てのために新島に移住してからは建築業や清掃業、汲み取り仕事(※浄化槽のある家庭に訪問し、点検・清掃を行う仕事)や漁業組合など、幅広く様々な仕事に取り組んできました。

ー本当にたくさんの仕事をされていますね。西胤さんにとって仕事を選ぶ上での基準は何ですか?

西胤さん「誰かの役に立つ仕事であることですかね。身体を動かす仕事は全然苦じゃなかったし、むしろ好きでした。それに、生きていく術として手に職を付けるって大事だなと思って、最初は建築を選びました。新島に移住してから様々な仕事を経験する中で、そこで暮らす人の顔と家が一致するようになったり、仕事を通じて地域のことがだんだん分かってきましたね。

ーなるほど。西胤さんがとても人当たりが良くて、話しやすいのは、このような豊富な経験があるからなのですね。お仕事遍歴を拝見すると2013年に1年間休業をされていますが、その間はどのように過ごされていたのですか?

西胤さん「友人の手を借りながら、1年かけて家づくりをしていました。島にいながら休業することは勇気がいる決断でしたが、無理やり休みましたね(笑)。1年かけて集中して家を建てたことで、色々と気持ちが吹っ切れました。そのタイミングで新島村商工会からお仕事のお誘いも来たんです。

そうそう、商工会の採用面接の際に新島で友人たちと組んでいたバンド活動の話題になって、バンドでは新島にまつわる詩を曲にのせて新島讃歌のようなものを歌っていたのですが、そんな活動が地域貢献に繋がっていると言ってくれました。自分たちが楽しく活動していたことが、結果的に地域の活力に繋がることもあるんだなって、とても嬉しい発見でしたね。」

どの年代とフラットに話せるテルさんの人との接し方の秘訣

趣味も仕事も地域の人たちと一緒に楽しんでいる西胤さんのお話を聞いていると、地域の事業者さんと接する機会の多い商工会から誘われたのも、とても自然な流れだと感じました。そして、ちょうど40歳になったタイミングで新島村商工会に転職。その直前に自身で自邸を建てられていることも驚きですが、人生の転換期を感じさせるような印象的な流れを感じます。商工会では新島村の事業者さんをサポートする経営支援としての役割と、地域の活性化につながる地域振興事業を担っているそうです。

ー心機一転して商工会に転職した当時はどうでしたか?

西胤さん「これまでの仕事とは異なり、最初にしっかり研修を受けたのがとても印象に残っています。とにかく覚えることが多くて、初日の研修が終わって帰ったら、本当に熱が出ました(笑)。
『人や地域の困りごとに対して俯瞰的に状況を見つめつつ、寄り添いながらサポートしていくことで人や地域の役に立ち、地域を元気にする』そんな商工会の仕事って素晴らしいなと思い、これまでのさまざまな経験が言語化されて繋がっていくのを実感しましたね。さまざまな情報や知識、そしてネットワークを活用して地域のために活動する商工会ってかっこいいなと思いました。」

ーそれだけ濃密で刺激的な研修だったのですね。西胤さんにとって今一番のやりがいはなんですか?

西胤さん「青年部のメンバーとの関わりが一番楽しいですね。新島に想いを馳せる若い世代は頼もしく、地域のために新しい事業を始めた仲間もいて、彼らと話していると未来が明るいです。

あとは、自分の仕事を良い形で次の世代に引き継ぎたいと思っています。引き継ぐ状態に持っていくにはまだまだ整理が必要ですが。次の世代に渡せるように準備していくのが今の課題ですね。大変なことですが、変わるチャンスだと思って楽しんでいます。」

ー西胤さんが良い意味で任せる姿勢で接することで、青年部員の皆さんも自主的に活動を始めていると聞きました。日々の仕事や活動の中で意識されていることはありますか?

西胤さん「特に意識しているのは、『聴くこと』ですかね。これまで職人仕事ばかりやってきたので、気づかなかったことですが、商工会は色んな人と接する仕事なので、コミュニケーションを大切にしています。

それに、アウトプットをしっかり促すことも意識しています。島のプレーヤー達はみんな時間がないので、アウトプットしやすい状況をこちらで用意してあげることも大切ですね。

青年部の熱海視察では、参加者全員がアウトプットしてくれたおかげで、お互い刺激し合うとても良い状況が生まれました。中でも島内で報告会をやりましょうって話になった時はとても嬉しかったですね。」

ーアウトプットも様々なツールを使ってビジュアルにこだわって発信されているのが、本当にすごいと思いました。

西胤さん「そう、アウトプットしたものがしっかり伝わるようにビジュアルにこだわるっていうのも大事なポイントですよね。『伝えた』と『伝わる』の違いをしっかり認識していることが大切で、こっちは伝えたけど、本当は伝わってないって話がよくあるじゃないですか。コミュニケーションの根底にある、本当に伝わっている?という部分は常に追求していきたいと思います。」

ーホントですね。西胤さんの言葉全てにハッとさせられるものがいくつもあります。最後に、西胤さんが描く新島の在るべき未来とはどんなイメージですか?

西胤さん「シンプルですが、今いる子供たちが帰ってきやすい島にしたいですね。そのために暮らしやすい環境のマインドを整えたいです。有難い環境で暮らせていると思えれば感謝も生まれて、優しく暮らせますよね。そんな島になって欲しいと思います。」

テルさんとお話ししていると、「それいいね」「いいこと言うね」といったポジティブな反応が多く、話をしているこちら側も嬉しい瞬間がたくさんありました。地域を”支えている“人にはテルさんのように分け隔てなく人の話をしっかり聴く『傾聴力』の高い人が多い印象があります。地域に受け入れられ支えられながら様々な経験を重ねてきたテルさん、これからは地域を支えていく側として活動の幅をさらに広げながら、次世代にバトンを受け渡していく舞台づくりも忘れない、常に自身が置かれたフェーズを意識しながら活動をされている姿にとても感銘を受けました。そんなピースフルで頼れる存在「テルさん」から地域を元気にする秘訣を教えられた気がします。

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