

椿が彩る暮らしをともに考える2Days『暮らし探究』振り返りレポート
2025/02/25
今年で3年目となる、自分らしいスタイルで島への移住・定住を考える現地滞在プログラム『暮らし探究』を、2月11日、12日の一泊二日で開催しました。今回は椿の花が見ごろを迎えた大島で、「椿が彩る暮らしをともに考える」をテーマに掲げて実施しました。
伊豆大島は温暖湿潤な海洋性気候で、火山島という風土ゆえに、古くから椿が多く自生しており、椿のライフサイクルに合わせた独自のライフスタイルとともに椿のめぐみを余すことなく大切に利用してきました。
まさに椿をはじめとした自然の循環にうまく適応しながら成り立っていた島の暮らし。そんな島の風土が積み重ねてきた、そこにしかない暮らしの姿は近代化による環境の変化とともに徐々に失われていきました。
そんな状況の中、人と自然との密接な関わりの中で代々受け継がれてきた暮らしのスタイルや自然のあるべき循環に着目して、椿の備長炭製造という重要なピースを担う新たな事業が動き出しました。このタイミングで改めて、自然界の視点からとらえた椿の循環や人の営みとの関わりについて、参加者の皆さんと考えようと、今回のプログラムを設計しました。
大型船さるびあ丸から始まる旅
今回は、4名の方々にご参加をいただきました。大島との今後の関わり方に具体的なイメージを持たれている方ばかりで、お会いできるのを楽しみにしていました。
プログラムはたっぷりと島での時間を過ごしてもらうため、前日の夜に東京竹芝を出港し、翌日早朝に大島に到着する大型船さるびあ丸に乗船する行程をセレクトしました。大島には何度か訪れたことのある参加者が多かったものの、大型船の乗船は初めてという方がほとんどで、新鮮な船旅になったようです。
東京竹芝の夜景を眺めながら、それぞれ思い思いの時間を過ごす…。かと思いきや、共通の話題がすぐに見つかり、あっという間に打ち解けていました。これも、大型船ならではのマジックなのかもしれません。

そして早朝6時、大島に到着。まずは長旅の疲れを癒そうと御神火温泉へ向かいました。
朝風呂を楽しむのも、島旅の醍醐味。すっかり打ち解けた参加者の皆さんは、早朝から営業している『観光喫茶もももも』に朝食を食べに行き、地元の方々との交流を楽しまれたようです。
伊豆大島椿まつり会場「総合案内所」見学からスタート

朝食後は元町港桟橋に集合し、自己紹介を中心としたアイスブレイクを行った後、伊豆大島椿まつり総合案内所の見学からスタートしました。今年、第70回を迎える椿まつりでは、私たちTIAMが統括ディレクションを担当し、「椿とめぐる風土」をテーマに、椿と大島の関係性をわかりやすく伝える展示を企画・制作しました。
椿を島の産業や暮らしの中でどのように活かしながら、関わりあってきたのか、その片鱗を見ることは、大島らしい暮らしを考える上でとても重要です。参加者の皆さんと共に展示空間を巡りながら、その関係性について丁寧にお話ししていきました。

現代のアンコさん、KARARA椿とあそぶアトリエ 杉本さんのもとでお手伝い
今回のプログラムでは、話を聞くだけではなく、 実際に体験しながら学ぶことを大切にしています。島の暮らしや日常的に行っている手仕事を共に実施することで、椿と人との間の距離や短期から中長期まで、様々な時間軸の中での椿との関わり方について、より深く体感できると考えたからです。また、協働することで、垣根を越えた本音の対話が生まれる場になるのではないかと考えました。

まず最初に訪れたのは、椿の殻でアクセサリーを作る「KARARA 椿とあそぶアトリエ」杉本美佳さんの作業場へ。
今年は椿の花付きが良く、椿油の原料となる実(種子)が多く収穫できそうとのことで、実を拾いやすくするために下草を刈る作業をお手伝いしました。
伐採された木を運び、枝葉を燃やす。単純な作業の中でも参加者との間に自然と会話が生まれ、お互いのことを知る良い時間となりました。さらに、杉本さんがチェーンソーを手に迷いなく伐採する姿はとてもかっこよく、普段の会話からは想像できない、新たな一面を垣間見る機会にもなりました。

昼食は大島の豊かな食材が盛りだくさん
作業が終わり、お待ちかねのランチタイム。
今回のお弁当は、元町港近くでお店を営む『喫茶酒場なべきち』さんにお願いしました。お弁当には大島の冬のご馳走ハンバノリの炊き込みご飯「はんばごはん」や「さび(クロシビカマス)の煮付け」など、大島ならではの食材をたっぷり使った特別な内容でした。みんなで美味しくいただいて大満足!ありがとうございました!!
昼食後、杉本さんから椿の剪定についてのお話を伺いました。また、「皆さんは椿の蜜を味わったことがありますか?」との問いかけから、椿の花からしたたる蜜をみんなで味わってみることに。口に含むと、とびっきりの甘みを感じ、一気に口の中に広がりました。想像以上の甘みに皆さん驚いた様子でした。椿の受粉に大切な役割を担うメジロやヒヨドリは、この蜜を求めて椿の花々を飛び回るそうです。また一つ、椿についての学びが深まった時間となりました。

椿の循環に重要なピース、東京備長 平井さんのお手伝い
午後は、伊豆大島で椿の備長炭の製造に着手した株式会社東京備長の平井雄之さんのもとへ。現在建設中の炭窯の最終工程、窯に赤土を詰める作業のお手伝いをしました。
平井さんについては、以下の記事もぜひご覧ください。
椿の備長炭が繋ぐ、地球と人々の暮らし
伊豆大島で椿の備長炭をつくろうと立ち上がったのが、株式会社東京備長の平井雄之さんです。炭作りの技術を習得するため高知県室戸市で1年間修行を積んだ後、2024年7月から伊豆大島で大きな挑戦をスタートさせました。
冒頭、平井さんから「僕も炭窯作りは初めてで、試行錯誤しながらようやくここまできました。ぜひ皆さんの知恵を活かして、今日の作業をうまく進める方法を一緒に考えてほしい」というお話がありました。
島に住んでいると、初めて挑戦することが都心での暮らしに比べて多いように感じます。それは生活インフラの違いが大きいのかもしれませんが、今でこそ都心での暮らしに引けをとらないくらい豊かな環境が整っています。ここに至るまで先人たちは何もないところから作り上げ、積み重ねてきました。その多大な苦労や努力に敬意を払うとともに、今回の作業を通じて「島で生きていくための心構え」を学ぶ機会にもなりました。

平井さんの炭窯は、島内外の様々な方が時間をかけてお手伝いしながら作り上げられてきました。その最終工程として、私たちも気持ちを込めて作業をさせていただきました。様々な人たちの手によって作られた炭窯はまるで生きているかのような存在感を放ち、私たちに多くの問いかけをしてくれている気がしました。
島の方々と語り合う、深くて濃い夜
日中にお世話になった杉本さん、平井さんに加えて、島内で特定外来生物に指定されているキョンのジビエ化に挑戦する河原さん、島の南部地区でゲストハウスを営み、伊豆大島ジオパーク認定ジオガイドの神田さんを交えて、交流会を開催しました。
ひとつの鍋をみんなで囲む大家族のような光景は、まるで島の一員になったかのようにフラットになんでも語り合える場となりました。
改めて、平井さん、杉本さんの取り組みに対する想いをじっくり伺うことができたのはもちろん、参加者の皆さんからも島で暮らすことや島で新たな事業にチャレンジすることなどについて様々な質問が投げかけられ、楽しい雰囲気の中にも有意義で熱い、とても深く濃い夜を過ごすことができました。
椿が彩る暮らしを考える、空き家活用ワークショップ
2日目は大島のコワーキングスペース『Izu-Oshima Co-Working Lab WELAGO』で「椿が彩る暮らしを考える、空き家活用ワークショップ」を実施しました。
まずは1日目の学びや体験を振り返りながら、島とどのように関わりたいか、また、関わるべきかを話し合いました。「自分の事業の中で大島をPRしたい」「友人を連れてツアーをしたい」など、移住や定住だけではない関わり方の可能性についてもさまざまな意見が交わされました。島との関わりはもっと多様で良くて、自分らしく関わることが何よりも大切なのだと気づかせてくれた時間でした。

最後は、一番のメインワークである『椿に囲まれた、空き家活用ワークショップ』を行いました。私たちTIAMの新拠点として構想を練っている最中の物件を題材に、今後どのように活用していくと効果的で面白く活用できそうか。参加者の視点からワークを行いました。

皆さんからいただいたアイデアの一部を公開します。
- 椿の広がる庭を活用して青空レストラン
- 島の方との交流拠点
- まるごと一軒家オフィス
- インターン生の受け入れの場
- アクティビティ付きインクルーシブ宿
- オーナー制シェアハウス
- 椿留学ができる場所
- 島の食を楽しむクラブ活動ができる場
というわけで、TIAMメンバーにとっても大いに参考となる機会となりました。ありがとうございました!
島との関わりは始まったばかり
2日間のプログラムはあっという間に終わりましたが、ここからが本当のスタートです。私たちは、このプログラムが参加者の皆さんと大島との良い出会いの場になることを願い、アテンドをしています。
「また帰ってきたい」「何か一緒に挑戦したい」そんな想いが芽生えたとき、大島の存在を思い出してもらえるような機会になっていたら嬉しいです。

最後に、参加者の方々からいただいたコメントを一部抜粋でお届けします。
「これまで考えてもみなかった「炭」が、少し身近な存在に感じました。既存の産業の形にとらわれない新しい在り方やプラスの価値づくりを自ら創っていく平井さんの描くビジョンを、あの場所で聞けたことが価値ある時間でした。」
「真っ白な状態の物件を目の前にして、自分と大島との関わり方に新たな選択肢ができた気がしています。」
「大島の歴史、先人の工夫を繋いできたんだなと感じる瞬間がとても多く、学びの多かった時間でした。1つの作業をとっても、たくさんの工夫・想いが詰まっており、どうしたらうまく行くかを考えながら進めるのがとても楽しかったです!」
「島の方とのご飯は、初めて体験する時間でした。同じ想いを持った人たちとのご飯はとても美味しく、温かかったです!あちこちで、大島をよくするためにはどうしたらいいのかを話しているのを聞いてて、刺激になりました!」
「現地に訪れることの大切さ、地元の人と関わってみることで新たな視点や発見が得られると学んだ。」
「『島にとっての豊かは何か』については、これからの出会いや経験で探究していきます!!プログラム参加前はこのような視点はなかったので、気づかせてくださり、本当にありがとうございました!一人一人の豊かさがあり、その想いがあるこその工夫や価値なのではないかと思いました!!」
嬉しいお声をたくさんありがとうございました!
ぜひまたいつでも大島に帰ってきてくださいね。
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