在りたい生き方から島での暮らしを組み立てる『暮らし探究』プログラムを振り返る
2023/04/30
2023年2月中旬に移住・定住をテーマにした現地滞在プログラム『暮らし探究』を実施しました。日本全国、各地域で盛んに取り組まれている移住・定住に向けた施策は、大島においても当然急ぐべき大きなテーマとなっています。
大島の人口は昭和27年には13,000人を記録しましたが、離島ブームによる観光の活性化やオイルショック等によるUターン現象で一時増加傾向を示しました。しかしその後は、不況による観光の停滞などの影響を受け、減少傾向が続いており、2023年4月1日時点で、昭和27年当時の約半分に迫る6,969人にまで減少しています。
さらに大島町の高齢化率は、全人口の35.5%(平成27年1月時点)を占め、これは内閣府が予測する2050年の日本全体の高齢化率36%に非常に近い数値となっています。このような状況下で、大島の未来を考える必要性があります。
産業別人口を見ると、かつての主要産業であった農業や水産業の第一次産業が減少傾向にあり、一方で、サービス業や卸・小売業などの第三次産業が増加傾向にあります。島内事業者の事業承継がスムーズに進まず、島特有の文化が失われつつある状況にある中、地域住民や事業者、自治体が協力して、大島の課題に取り組む必要があります。
大島は、日本社会が直面するであろう高齢化社会や少子高齢化社会を先取りしており、その対策が急務となっています。これまで培われた大島の文化や風土、自然資源を活かし、島内外からの人々に魅力的な場所として認知されるような取り組みが求められています。
地方創生の観点から、大島は貴重な存在であり、多様な分野からの支援が必要となります。地元産業の振興や事業承継の支援、若者の定着や移住促進、観光客の誘致など、様々なアプローチが考えられます。
例えば、伊豆大島は首都圏からのアクセスが良く、雄大な自然が残る地域であり、近年では社会課題に向けた取り組みや新しい教育の場として注目を浴びています。島の豊かな自然は都市にはない体験を提供し、人口構成において30年後の日本を予測させる環境が社会課題の探索と解決のフィールドとして期待されています。
そこで、私たちは島の課題を見つめ、潜在的な価値を見出し、有益で持続可能な新しい「しごと」や「しくみ」の創出を目指す事業創出プログラムを実施することで、島に関わる人口を増やし、地域の雇用創出を図りたいと考えています。
島における課題が多いほど、島との関わりを深め、取り組むべき活動は増えていきます。ただ単に「移住・定住してください」と呼びかけるだけではなく、まずは自分自身が島との関わりや自分自身の在るべき姿、暮らしについてじっくり考え、共有することで、より地域を深く理解し、自分自身と地域との相性も明確になってきます。これにより、地域に対する深い理解が生まれ、持続可能な地域社会を作り上げるきっかけが生まれてくると考えています。
今回の移住・定住プログラムについても、そんな前段プロセスを経て設計を進めていきました。
相手のことをよく知ることで、自分自身を知る
今回の移住・定住プログラムには6名の方(1名キャンセル)にご参加いただきました。まずは参加者同士お互いを知る時間として自己紹介の時間を通常よりも多くの時間を割いて実施しました。
プログラムではそれぞれのセクションごとにワークシートを用意し、ワークショップ形式で進めていきました。いと〜まんがファシリテーターを担当し、それぞれが考えていることや感じたことをスムーズに引き出し、共有していくことで参加者それぞれに新たな気づきや学びが得られるような工夫を随所に仕掛けていきました。
自己紹介では輪になって隣に座っている人の似顔絵を描くところからスタート。絵を描くなんて学生の頃以来である人がほとんどで、さらに初めて出会う人の似顔絵を描く状況に最初は戸惑う人もいて、ちょっとドキドキでしたけど、描きながらお互いの絵を見比べあったりするうちにすぐに笑顔溢れる和やかな雰囲気に包まれました。
似顔絵が仕上がったら、自身の名前とニックネーム、今人生の中心にあること、あなたの凸凹(偏愛や癖等)、最近のNEWS(驚いた、嬉しかった、落ち込んだetc)等を記入してもらい、発表・共有タイムへ。自己紹介に付随した様々な話題を盛り込むことで、初めて同士でもその人が好きなものや苦手なもの、大切にしていることなどお互いを知ることができて、会話の糸口も見つかります。すぐにニックネームで呼び合う関係が生まれました。
じっくり島を感じる時間
続いて訪れたのは伊豆大島が誇る絶景スポット『裏砂漠』。伊豆大島ジオパーク認定ジオガイドのかんちゃんが案内してくれました。この日も期待通りの強風で、圧倒的な自然を前に、「島の自然を味わう」というよりは、強烈且つ無条件に飛び込んでくる、「為す術が無い状況」。
センセーショナルな島の自然の出迎えにみんなのテンションもアゲアゲでした笑。その後はIターンやUターンの方々が空き家をリノベーションしてゲストハウスやカフェを営む物件が集積しつつある地域として話題となっている波浮港地区を散策したり、火山島ならではのジオスポットを見学しました。
伊豆大島ならではの自然を感じたり、そんな自然によりそいながら暮らす方々と出会ったり、1日目は島を感じるインプットの時間としてそれぞれ自由に思い巡らす時間としました。
夜は島の食材を使った料理を味わいながら、島に移住してきた先輩や島出身の方たちと交流しながら語り合う時間を設けました。参加者の方々と一緒につくった新鮮な地魚を使った島寿司づくりはとても喜んでもらえました。
ちなみに島寿司は伊豆大島では青唐辛子を効かせた醤油やみりん、酒などで作った調味だれに漬けるスタイルで「べっこう」という名で親しまれている一方、他の東京の島々では同じく醤油ベースのたれに漬けて辛子をのせて辛味をつけるスタイル。両方作って食べ比べすることで、東京諸島の食文化の奥深さを知ることにもつながりました。
移住者や島出身の方々とのざっくばらんな会話も参加者の皆さんにとってはとても参考になる貴重な時間となったようです。
自分の人生を見つめなおし、島でのライフスタイルを思い描く時間
翌日はあいにくのお天気。まずは伊豆大島クエストハウスでのワークからスタートです。最初に運営メンバーより島暮らしの心得や島で暮らしていく際のヒントや参考になる情報などをプレゼンテーションしました。
続いて行ったのは『人生曲線』。これまでの人生を振り返りながら、盛り上がった時、盛り下がった時、幸せだった時、大変だった時などを曲線にして描くことで自分自身の人生をあらためて見つめ直し、さらに今後の未来についても予想しながら描きました。その後はみんなで共有タイム。長い人生の中で皆さん様々な生き方や経験をされてきていて、目の前の様子からは伺い知れないことを知る貴重な時間となりました。改めて人生の奥深さ、幅広さ、選択肢は無限大だし、生きていれば避けられない苦労や災いが訪れることもある。そんなことを思い巡らせながら、あらためて在るべきライフスタイル、移住・定住や島ぐらしを考えることは大切なプロセスだと思いました。
プログラム2日目はお互いすっかり打ち解けて、さらに普段の出会いの中ではなかなか聞く機会のない話題やそれぞれの想いもワークショップを通じて知り合えたことで、信頼関係もしっかり築けている感じでした。もちろん、私たちスタッフも一緒にワークに参加したので、その場にいる全員で想いを共有し、自分自身も深く見つめ直す時間をつくることができました。自分の中にあるものを吐き出すことで気持ちが楽になり、お互いのことをしっかり認識することができる。心理的安全性をしっかり確保することで、気持ちのコリがほぐれてリラックスして参加されている様子が伺い知ることができました。
その後も、もし島で暮らすとしたら、どんな家で、どんな人と、どんな働き方をして、どんな趣味を持つ?多拠点生活?それとも完全移住?などなど自由に想像しながら描く、『仮想!島のある暮らし』など、趣向を凝らしたワークを行いました。そんなワークを通じて改めて移住や島で暮らすことについてじっくり考える参加者の皆さんの姿勢を前に、しっかりサポートしたい!そんな想いが込み上げてきました。
じっくり重ねたインプットとワークのあとは物件見学へ
これまで島の各所を訪れて大自然を感じるスポットや島での暮らしぶりがうかがえる島民との交流を通じて島の空気感や魅力を感じたり、ワークショップを通じて理想的なライフスタイルについて考えたり、これまでとこれからの人生についてじっくり見つめ直したり、自身を深く掘り下げてきました。次はいよいよ空き物件の見学です。今回見学した物件は2つ。島の北部の岡田地区の物件と島の中心地である元町地区の物件。岡田の物件は元々宿泊施設だった場所で、内部が迷路のように複雑な構造になっていて多くのお客さんが訪れていた時代に増築を重ねた様子が伺い知れました。そんな間取りがなかなか味わいがあって活用次第では面白くなりそうな可能性を持った物件でした。旅館営業当時の観光ポスターなどもそのまま掲示されていて時代がそのまま止まってしまったかのような空間に皆さん少々興奮気味でした笑。
続いて訪れたのは元町の物件。元町といえば、島の主要施設が集まる島の中心地。対象物件は主要道路のすぐそばに建ち、立地としては最高。平屋のシンプルな間取りで事務所向き、といった感じでした。実際に物件を見学することでイメージもグッとリアリティを増しているようでした。「あんなこともできるな!あ、あれもできるんじゃない!?」など、ワクワクする未来を思い描くことで、可能性はどんどん膨らみます。
その後、2グループに分かれて移住者が始めた2ヶ所の飲食店でランチをしながら2日間を振り返りました。皆さんすぐには移住に向けて動けないようでしたが、島ぐらしへの解像度は確実に上がったようで、理想的な移住のスタイルや方向性がより具体的に定まっている様子でした。
関わりしろを広げる活動は続きます
というわけで、2日間にわたって行った現地滞在プログラム『暮らし探究』は無事に終了しました。最後に参加者の皆さんからの感想やコメントを抜粋してお届けします。
「ワークの時間は改めて自分のことについて考える良い機会だった。」
「食事会は様々な移住者の話が聞けたので、いろんな生き方を身近に感じることができてよかった。また、他の参加者のこれまでの生き方やビジョンを知ることで自分の人生にも取り入れてみようと思える考え方などもあり、学ぶことが多かった。」
「実際に移住した方や島育ちの方の話をフランクに聞くことができたのがよかった。実際に継続的な関わりを考えた時に人の顔が見えるというのは安心感になる。」
「空き家見学会は島ぐらしをもう一歩踏み込んで見ることができるコンテンツのように思う。具体的イメージが湧くことに近づくので伊豆大島との関わり方もどんなパターンがあるかなと考えることができた。」
「色々な人の人生曲線を見て、自分の人生をどう捉えるのかはもっと柔軟でいいと思った。」
「2拠点生活など様々な暮らしをしている人々と出会い、話してみることで自分の考えや思いとの距離感を改めて測れた。」
「波浮港地区のご夫婦もDIYが楽しそうで、興味深かったです!空き物件を見て、家主からお話が聞けたのも現実味がありよかったです。参加者に建築家がいらっしゃったことで、古く傷んでしまった空き家がどんなふうに生かせるのか、構想が聞けてワクワクしました。建築がわかるってかっこいいなと思いました。またこのような機会があれば参加したい!ありがとうございました!」
「オープンマインドって簡単なことじゃないんだなと思いました。吐き出す内容、タイミング、聞き出す内容、タイミング、つながり方、つながる内容、興味のわかし方、伝え方、色々勉強になりました!大変なことがたくさんあると思います!これからも、島、島民の魅力が伝わるよう頑張ってください。私も何かできないか、考えたいと思います!」
嬉しいお言葉の数々、ご参加ありがとうございました!
引き続き島との関わりを増やすきっかけをつくり続けていき、冒頭のような多くの課題を抱える大島においてその解決へとつながるような様々な暮らしのスタイルが生まれ育まれていければと思います。引き続き知り合えた仲間たちとともに対話を続けながら意義ある活動につなげていきたいと思います。
Let's Share
この記事をシェアするRelated articles
関連記事舞台は三宅島・御蔵島・八丈島・青ヶ島。東京都の離島で、島の課題解決に挑むスタートアップ募集!
昨年度、株式会社TIAMが島側から運営のサポートをさせていただいた、東京都主催のスタートアップ等による島しょ振興促進事業「TOKYO ISLANDHOOD wi・・・
2024/05/22
東京諸島における“未来のタネ”の発表会。『カタルシマ』が今年も開催されました。
「カタルシマ」というイベントをご存知でしょうか。2016年から毎年1回行われてきた、東京諸島の若者たちが集い語るイベントです。今回は6回目の開催。主催は私が別で・・・
2022/01/05