兆しに出会う。ー 利島の今と未来の「進行形」 ー

 2024/06/03

離島に暮らしていると、人口減少や高齢化、産業の担い手不足など、ニュースなどで目にする社会課題を身をもって感じることがあります。

そんな島の課題に対して逆らうかのように、

「40年近く人口は約300人をキープ」
「20〜40代の8割が移住者」
「投票率は94%超え」

など、驚くべき数字をいくつも残している利島には「島の未来」につながるヒントがたくさんあるはず。そんなヒントを探ろうと今回、一泊二日の行程で利島のキープレーヤーにお会いするフィールドワークを行いました。

「利島のキーパーソンが一堂に集まる機会なんてそうそうないから緊張するね。笑」と編集部全員が口を揃えるくらい、豪華なキープレーヤーの座談会を通じて利島の「今」について掘り下げます。

まずは今回参加していただいた方々をご紹介します。

村山 将人さん
利島村 村長。就職、結婚を経て12年前にUターンをし、現職に就く。

荻野 了さん
利島村役場 産業観光課。埼玉県所沢市出身で、利島へ2007年に移住。

隅 智孝さん
利島村役場 総務課。あきる野市出身で、利島へ2013年に移住。

加藤 大樹さん
利島農業協同組合。埼玉県出身で、利島へ2014年に移住。

清水 雄太さん
株式会社TOSHIMA。埼玉県春日部市出身で、利島へ2010年に移住。

今回の座談会では、「RE:TALK  Question」と題して島に関わる大切な9つのキーワードを用意しました。その中から特に熱い議論が交わされた「もったいない」と「挑戦」について取り上げたいと思います。

人口300人の島で、日常と非日常の境界線を想う

ー (伊藤)今日はお集まりいただきありがとうございます!
皆さんとこのようなかたちでお話しするのはなんだか緊張しますね。笑
今回は島に関わる9つのキーワードを用意させてもらいました。

まず初めにどれからいきましょうか…、では、利島の「もったいない」を伺ってみたいのですがどうですか?

清水さん:ふらっと立ち寄れる飲食店がほとんどなくて、来島された方は困ることが多いのではないですかね。
最近、単身で移住してくる方も多いので、まだまだランチのポテンシャルはありそうですね…!

隅さん:昔聞いた話だと、ツケ払いで支払いをする人が多くて月末払いではやっていけない人が多かったと聞いたことがあります。

荻野さん:そうそう、農協も元々、ツケ払いでしたもんね!
今はスマホ決済が導入されて、ツケ払いが一気になくなったとか。

加藤さん:なくなりました!
今でもツケ払いはできますけど、みんなポイントが入るのでスマホ決済が多いですね。笑

清水さん:今や島内で財布は持たなくなりましたね。
郵便局でも、農協での買い物も、ねこまち(正式名称は「ごはんとおやつ ねことまちあわせ」。利島農業協同組合が運営する古民家カフェ)も全部スマホ決済。そういう素地は、農協をきっかけに変わっていった感じがあります。

とはいえ、まだまだ予約が必要な飲食店も多くて、やっているかどうかも外からはわかりにくかったり。

荻野さん:どこも商売っけがないよね…

隅さん:民宿は特にそうかもね。お盆や年末年始はやっていないところも多いんですよ。

荻野さん:観光客向けというよりは業者さん向けに宿を営んでいる方が多いですよね。役場のホームページには民宿の情報も出しているので、観光目的の方から「空いている宿ありませんか?」という問い合わせもよく来るんです。

村山さん:それと、島にキャッシュを落とす仕組みがまだまだ少ないですよね。
例えば、隣の新島や大島、八丈島は観光客が多く訪れることもあり、お土産もたくさん種類があるけど、利島はまだ数が少なく、元々観光に対する意識が薄いのかもしれないです。

隅さん:今の受け入れ体制のまま観光客が増えると、島の建設をお願いしている業者さんが泊まる場所がなくなって、村の事業が進まなくなるという課題もあるから難しいところですよね。

コラム:島にとって観光は何のため?

観光とは何のためにあるのでしょうか。
受け入れ側にとっては地域振興のため、新たな産業や雇用の創出のためなど、様々な目的があることでしょう。

これまでの対談を振り返ると、島における観光の必要性について考えさせられます。

観光客を増やす取り組みはもちろん大事だけど、長期的な関わりを通じて島を好きになってくれる人を増やしたい。こうした意識が利島には溢れている気がします。実際に、利島では2013年から毎年、IVUSAの学生が利島の椿産業の保護・育成に取り組んでいたり、ふるさとワーキングホリデーを通じて島での暮らしを体験できる機会も提供されています。

利島が実践している、島と継続的な関係性を築くための新しい観光の形から、私たちは気付かされることがあるのではないでしょうか。

話は進み、SNSで一気に拡散され、話題となった「東海汽船のミステリーきっぷ」へ話題は移って行きました。

清水さん:年末に1日に120人が来島した東海汽船のミステリー切符はどう思いましたか…?
実はあの日、ここ10年間の中で最も来島者数が多かったそうです。

加藤さん:そうなんですね。
農協直営店も開いて、数値も取ったんですけど、あまり伸びなかった…
準備が足りなかったかなと思いました。多くの方が来島してくれたことに対してはとても嬉しかったです!

ただ、島の受け皿がなくて、来島者の方々が行き場を失っている感覚がありました。その反省を踏まえて、来年はちゃんとやりたいってみんな言ってます。

清水さん:時代もあるので、SNSでばっーと拡散されたら120人はあっという間に来るんだなということもわかりました。閑散期にこれだけの人が来ることって、普通はないじゃないですか。
SNSの怖さも身をもって知りました。

他の島もバスが足りないとか、交通手段がなくて船の時間に間に合わないなど、結構大変だったようです。それに、事前に情報は共有してもらっていたのですが、どう広めるべきか悩みました。それぞれの事業者が普段の業務の中でどれくらいの人数を超えると受け入れできないのか、その判断の塩梅が難しかったです。

隅さん:行政側からすると、120人が日帰りで来ている時に災害が起きたらどう対応するべきか考えるきっかけになりました。宿泊客であればそれぞれの宿の判断にある程度任せられる部分もありますが、日帰りのお客さんとなると、我々が把握しきれないところが多いので、どうやって(避難経路など)的確な情報を伝えるかなど、あらかじめシミュレーションが必要だと思いました。

清水さん:今、東京諸島への観光客がすごく増えてますよね。
今後、島民が都内から島に帰りたいけど船やヘリコプターが満席で帰れない、島を出たいけど出れないということも起こってくるんじゃないかな。

荻野さん:よく考えると、利島に観光が浸透しない理由の一つには就航率の問題があるかもしれません。船が着きにくい場所を選ぶ人は少ないので、観光以外で島を成り立たせるしかないんですよね。

全員:あー、確かに。

コラム:観光客が増えることは島にとって幸せなのか?

近年、観光客数の増加により、その地域に暮らす人々や自然環境、生態系、景観などに悪影響を及ぼしてしまう、オーバーツーリズムが問題視されています。

そのような状況の中、伊豆大島の姉妹島であるハワイ島では、観光客に向けて「レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)」を呼びかけています。この考え方は、旅行先の地域コミュニティや環境に与える影響に責任をもち、旅行先に配慮することを促すものです。

私たちが好きな景観を100年先も守り続けるために、今後の振る舞いを問われる時がきています。

挑戦の先に見える兆し

ー様々な角度で皆さんの考える「もったいない」について伺ってきましたが、続いて皆さんが今チャレンジしていることを教えてもらえますか?

清水さん:株式会社TOSHIMAは、今年インターンを受け入れようと思っています。
去年働きに来てくれた子が、卒論を利島で書きたいというので、午前中はバイトしてもらって、午後は卒論に集中してもらう。そんな仕組みを考えています。

加藤さん:長期滞在すればするほど、島の良さや課題も分かってくるのでいいですね。
利島農業協同組合は、新たな商品としてビールを開発しました。4年前に椿の花から酵母を採取して、10万分の1の確率とも言われる良質な酵母が取れたので、椿油と酵母を使ってビールをつくっています。
酵母が入っているので、賞味期限が製造後3カ月しかないのは課題ですが、期間限定の希少性を売りにしていけたらと思っています。

ー村山さん、役場はどうですか?

村山さん:うちは毎日チャレンジですね!!

隅さん:今、利島村は東京都の「東京宝島 サステナブル・アイランド創造事業」で4つの事業を進めています。1つ目は水循環を使った住宅建設、2つ目は農業の振興、3つ目は漁業の振興、4つ目は公園改修です。

昔から悩まされてきた水の課題については、水の再生処理技術を持つWOTA株式会社さんと連携して、実証実験としてトレーラーハウスを設置・運用しています。また、東京都の3C補助(子供・長寿・居場所区市町村包括補助事業補助金)を活用し、複合型サテライトオフィス建設事業を進めており、ここでも水循環システム導入の検討もしているところです。

村山さん:水循環システムの一部を利用することで、水供給の負荷や住宅問題が解決できるかもしれないという実証で、今後公共施設への導入も考えています。
利島で1年間水循環システムを搭載したトレーラーハウスで暮らしてもらって、ある程度データは取れてきました。実証実験が終わった後の展開も検討中です。
能登半島の被災地にもシステムをお貸出ししているので、他の島でも使えるようになったらいいですね。

ー なるほど、ありがとうございました!

水循環システムを搭載したトレーラーハウスの導入については、私たちも注目しています。

島内の住宅がオフグリッド化することにより電力や水の供給体制を改善し、生活環境を向上させるばかりか、再生可能エネルギーの利用により、環境にやさしいエネルギー供給が実現できます。今後オフグリッド化を進めていくことで、太陽光パネルや風力発電をはじめとしたエネルギー関連のビジネスが育まれ、企業や起業家に新たな機会の提供にもつながります。また、災害時におけるレジリエンスを高める大きな要素としても期待できるでしょう。

今回は事業の垣根を超えたキープレーヤーを集めた座談会という、東京都離島区でも初めての試み。
座談会中もそれぞれの取り組みに対して、協力できる部分を探したり、ノウハウを共有している姿がとても印象的でした。事業者同士が手を取り合うチームワークがあるからこそ、人口300人の利島でも先進的な取り組みが次々と生まれているのだなと思いました。
ご協力いただいたみなさん、ありがとうございました!

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